閑話4-5

「ソラセナ様の護衛騎士が決まりました」

オナグル様の側近の一人がそう言って3人の騎士を従えて来たのは城に来て3日目だった

これまでは騎士団の上層部が交代で当たってくれていたらしい


「剛盾のスキルを持つハンソン・メリケンス、炎剣のポルテ・サポリート、氷槍のベラドン・グリシーヌです」

側近に紹介された3人が順に頭を下げた


「そう。よろしくね」

私はそう言ったものの彼らに興味はない

それよりも授業に備えた身支度をすることにした

侍女たちに整えてもらっている間、彼らの間で交わされる言葉が聞こえてきた


『ダビア団長とマロニエは何でこの役目を断ったんだろうな?』

『しかも断ったら新兵まで降格って聞いて即辞めるとか…あの場で聞いてて耳を疑ったぞ』

『勿体ないよな?正妃の護衛なんて望んでなれるものでもないのに』


マロニエ、ですって?

聞こえてきたその名前に背筋が凍り付いた

学園でのクラスメイトの顔が浮かぶ

マロニエ・コマン、シルバーの家の長子でありながら騎士を目指した変わり者

騎士団に入ったのをきっかけに家を勘当されたと噂で聞いた


学園時代のマロニエは常に優等生の位置にいた

同じクラスにいた、私に従わない他のゴールド3家の生徒とは親しくしていたのを知っている

でも彼が私に向ける視線はいつも、他の生徒たち同様蔑んだモノだった


家を捨てるほど騎士団への想いが強かった彼が、私の護衛になるのがイヤで騎士団を辞めた

ゴールドの生まれで、正妃になる立場である私に守る価値を見出せなかったという意思表示

それが彼だけでなく騎士団長も同じだという


今回私の護衛候補に上がった者は特攻、もしくは精鋭と呼ばれる者達のはず

有事の際、私を守る精鋭を失ってたという事実に目の前が真っ暗になる

団長の噂は私でも知っていた

騎士団の精鋭の3人分の働きは軽くできるはず

現在王族に付いている護衛に入っていないのは、家柄の問題だけだというのは周知の事実だ


オナグル様も流石に新兵降格と言えば断わったりしないと思っていたはず

なのに彼らは断った

でも一度口にした言葉は撤回することは許されない


「だから朝食の席でオナグル様は…」

昨日までと違った怒りを含んだ視線の意味をようやく理解した


「どうかなさいましたか?」

「…何でもないわ」

表面上気遣ってくれる侍女にもそう返すしかない

結局、婚姻の儀を迎えるまで私はオナグル様に声を掛けられることはなかった


*****


婚姻の儀を済ませると2人の寝室を案内された

でもそこで寝るのは週に一度でそれ以外は自分の部屋で過ごす

閨事も何の情緒もなく素っ気ないもので、その行動が義務だからと告げているようで悲しいだけ

事が済めばオナグル様は何も言わずに夫婦の寝室を出て行ってしまう

それでも子が出来れば少しは変わるかもしれないと、わずかな希望だけが私を支えている


23時半から30分だけ共に話す時間を設けられたけど、オナグル様から話を振ってくれることはない

日毎に私の苛立ちは大きくなる

正妃になったはずなのにと、それが口癖になるほどに打ちのめされていった

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