20-3

ダビアは大きく息を吐きだしてから口を開いた


「今朝、一部の騎士が集められて、その場で正妃の護衛になれって言われた」

それで騎士団を辞める理由がわからない

喜ばしいことではないのだろうか?

というか正妃…って


「イモーテル結婚したの?」

「いや。歌姫はあくまで歌姫で側妃ですらなれるかどうか…もし側妃になれたとしても表面的なもので、実質的には愛人枠だな」

「え?でもオナグルが溺愛してたんじゃないの?」

「それとこれとは別。そもそもこの国は処女説重視だしな。歌姫は離宮にいるし、お披露目の際に血の契約をしたって噂もある」

「血の契約?」

私は首を傾げながらロキを見る


「血液を垂らした聖水に魔力を通して契約内容を封じる。それを飲んだ者はカギとなる言葉を目を見て告げられた瞬間から契約が発動する…って言う下種な契約だな」

血液をって…ものすごく嫌なんだけど…

それ以前に召喚された日にも契約してなかったっけ?


「知らずに飲まされたらたまったもんじゃない。もっともそれが出来るのは王族のみだけどな」

「血の契約ですごいのは心を操られても操られてる本人は自分の意志だと疑いも持たない点だ」

「実際それがなされたのか、もしなされたとしてその契約内容もわかんねぇけど…実際お披露目の後から歌姫は離宮でおとなしくしてる」

「イモーテルが大人しく…」

どうもイメージが出来ない


「ドレスだ、宝石だ、男だと騒ぐこともなくなったらしいが、毎朝歌ってる姿を見る限り不満があるわけでもなさそうだ」

ダビアはそう言って紅茶を口に運ぶ


「だから今の最大の問題は正妃だ」

「予定通りならゴールドの一つ、オーティ家の令嬢だろう?マナーも教養も備わってると聞いたが?学園の成績表と紹介状も確認したことがある」

「学園の理事がオーティ家とつながってたらしい。外向きのマナーや教養は多少はある。でも実際はやりたい放題のクソガキと変わらない。学園から提出されたのは裏でかなり金が動いてるな」

「…」

私はロキと顔を見合わせる


「何より歌姫の存在を受け入れられないと喚き散らしてる。王太子が歌姫の元に通うことも、そのことに口を挟まないことも、正妃となる際の契約条項に含まれてるらしいが…」

「ねぇ、そんな条件飲んでまで結婚しなきゃならないものなの?」

私には到底無理だ

むしろ願い下げ


「王家にどれだけ取り入れるか、それが称号に拘る家の最重要課題だからな」

「…ないわ…」

思わずこぼした言葉にロキが苦笑する


「王族の警護が名誉ある仕事だと言われても、成人したクソガキの護衛なんて御免だ。断ったら新兵の地位まで降格だと言われたから辞めた。こいつも同じだ」

ダビアはそう言って隣に座る騎士の肩を叩いた

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