閑話3-3

歌姫について2日目にして私は心底ウンザリしていた

機嫌がいい時はまだいい

でも、その機嫌がいい時は少ない

今日は朝から癇癪を起したかと思うと護衛の騎士達を誘惑し始めた


王族特有の2つの契約を結んでいながらそれはまずいでしょう?

当人だけじゃなく一族が巻き込まれてしまうわ…


そう思っていたら偶然その様子をオナグル様が目撃してしまった

「歌姫が他の男を誘った数だけ、この購入リストから希望したものを消していこう」

「待ってオナグル!イヤよ。全部欲しいものなんだから」

「ダメだ。今2人に声をかけてたからリストの上から2つを削除する」

オナグル様は歌姫の目の前でリストに取り消し線を入れてしまった


「これはお仕置きだ歌姫。歌姫は俺のもので契約もある。2度と他の男を誘うんじゃない」

そう言うと縋りつく歌姫を置いて執務室へ向かってしまった


『バシ…』

「…っ…」

大きな音と共に左頬に激痛が走った

それが歌姫にしばかれたからだと気づくのに少し時間がかかった


私はなぜこんな目にあってるのかしら…?

呆然とする私に歌姫は吐き捨てるように言った

「あんたのせいよ!」

は?

意味が分からない

誰彼構わず誘惑する歌姫が悪いんじゃないの?

そう思っても口には出せない


「オナグルが来たらすぐに言いなさい。分かったの?」

「承知しました」

そういう問題じゃないと思いつつも言ってもムダだと諦めた


その日の昼には護衛が全て女性騎士に変わっていて、それがさらに歌姫の気分を害したみたい

私も、2人のメイドもそれ以降、毎日喚かれたり手を出されたり…

話をしようにも会話が成り立たない

途方に暮れて宰相であるお父様に相談しても謝られて終わり

そうよね

知ってしまった者をそう簡単に開放するわけがないもの

私はこの先ずっとここで飼い殺されるのかと思うと悲しくなった


この地獄がいつまで続くのか…

いっそ逃げ出してしまおうかと何度も思った


流石にもうこれ以上は…

そう思ってた矢先のことだった


「え…?」

オナグル様から告げられた言葉に呆けてしまった


「歌姫には契約を追加した。今後は離宮で過ごすことになるから君達は元の仕事に戻ってくれ」

契約を追加?

離宮で過ごす?

元の仕事に戻る?


心の中で言葉を反芻して喜びがこみ上げる


「君達には特別手当を出す。ただし歌姫のことは漏らさないように誓ってもらう」

「「「承知しました」」」

私達は揃って膝まづく

手渡されたのは魔術による誓約書

歌姫の事を一切他言しないという内容のものらしい

私達は魔術による署名をしてその誓約書をオナグル様に返した


受け取ったそれを見てオナグル様は去って行った


「よかったわ…」

「本当に…もうどうなる事かと…」

メイドの2人が心底喜んでいるのが分かる


「明日からは元の仕事に戻れるのね」

「普通の仕事がいかに恵まれてるか身に染みたわ」

私達はしばらく歌姫から解放された喜びに浸っていた

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