17-2

オナグルに促されるまま離宮に足を踏み入れる

決して豪華ではないが、それでも高級な調度品が見て取れる


「ここに俺と同じように触れて」

「こう?」

扉の魔道具に言われるまま手を触れる

淡い光が灯り、すぐに消えていく


「これで住人登録は完了だ。この館は登録されたものしか入れない。今登録されているのは俺と歌姫、側付きのヴィオノ・オビエ、俺の護衛であるビンスの4人だけだ」

そう言って高齢の女性と表情の動かない、目の濁った護衛を紹介する


「歌姫、俺は今から正妃の受け入れ準備で忙しくなる。夜には一度顔を出すからそれまではヴィオノに館の案内でもしてもらうといい」

「え?ちょっと待って」

「なんだ?」

「正妃って…?」

「俺の妻の事だが?」

「私…は?」

「歌姫は歌姫だろう?」

「私の歌姫って…」

誰よりも優遇されると思い込んでいたイモーテルは泣きそうになっていた

当然のようにオナグルの横に立つ権利があると信じて疑わなかったのに、妻は別にいると言われて混乱していたともいえる


「ああ。君は私の歌姫だ。だから泣く必要なんてないだろう?それに俺が正妃を持つことについては、自分に何かがあるわけじゃないならどうでもいいと、好きにしてと言ったと聞いたが?」

その言葉にはイモーテル自身にも心当たりがあった


でもそんな話だと理解はしていなかったのだ

難しい言葉が沢山出てきたため聞くのも煩わしくなり中断させたのだ


「あれは…そういう話だったの?」

「なんだ、理解してなかったのか?」

「だって難しい言葉がいっぱいで意味が分からなかったし…」

「たとえそうでも王族に対して自らの言葉を取り消すことは叶わない。でも安心するといい」

「安心?」

「歌姫が歌を歌う限り俺は歌姫を愛で続ける。それに…」

オナグルはイモーテルの目を真っすぐ見る

その手は耳に飾られたイヤリングに触れる


「歌姫が俺に逆らうことはないだろう?」

それは血の契約のカギとなる言葉


オナグルへの忠誠と絶対服従、その契約内容は契約に用いる血に込められている

その血をイモーテルは既に飲んでいる

あとは発動条件となるカギとなる言葉を、相手の目を見て告げれば契約は完了する


「…ええ。オナグルの言うとおりにするわ」

「いい子だ。なら、俺が正妃に対応している間、ここでおとなしくしていられるな?」

「勿論よ」

さっきまでと打って変わり従順になったイモーテルにオナグルはニヤリと笑う


「歌姫の役目は毎朝歌うこと。そして俺が求めた時にその声で鳴くことだ。考えていいのは歌と俺の事。他は不要だ」

有り得ないほど傲慢な言葉だ

通常であればイモーテルが受け入れるはずのない言葉

それをあえてオナグルは口にした


「オナグルの言う通りにするわ」

「なら正妃の事も受け入れるな?俺には正妃を迎え、愛し、敬い、子をなして秩序を保つ義務がある」

「…そうね。私には難しいことは出来ないもの…」

イモーテルは悲しげな眼をオナグルに向ける


「ではもう行く。ヴィオノ、後は頼むぞ」

「賜りました」

ヴィオノが深く頭を下げるのを見てオナグルは離宮を出て行った

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