16-3

日付が変わった頃オナグルは寝息を立てて眠るイモーテルを置いて部屋を出る

「歌姫をこの部屋から出すな。メイドや侍女を入れることも許さん」

「承知しました」

扉の前にいる騎士にそう告げてオナグルは廊下を進む


「父上に呼ばれている」

「伺っております」

王の私室の前に控える騎士はそう答えると、確認することなく扉を開けた

中に入り扉が閉まるのを待って王を見る


「歌姫はどうだ?メイドや侍女たちの評判がすこぶる悪いが…」

「多少のわがままは目をつぶってやってください。あと数日のことですから」

オナグルは苦笑しながら言う


「お披露目が済むまでの辛抱ということか?」

「お披露目の際に血の契約を」

「ほう?」

王はニヤリと笑う


「歌姫の奔放さはどうにもならないでしょう。たとえ俺が溺愛しようとも国を守る王族としての立場を捨てる気はありませんよ」

「なるほど。歌姫を形だけの側妃にすることを快諾したのはそのせいか?」

「歌姫はあくまで歌姫。手放す気はありませんがあくまで愛でる対象。子など出来ればその間この手に抱いて寝ることも出来ない」

「…」

王はその曲がった執着にわずかに眉を顰めた


「お披露目はしますがその後は毎日の務め以外で部屋から出すつもりはありません。もっとも血の契約をした後はそんな心配もないでしょうが」


血の契約、それは主従関係に近い契約になる

一度交わすと主となる者が死ぬか、魔力が無くなる以外に解除できない契約であり、契約内容は絶対のものとなる

万が一契約が破られるようなことがあってもその瞬間死が訪れる


「血の契約で何を望む?」

「俺への忠誠と絶対服従。それだけですよ」

「…お前にしては軽いな?」

「俺を一体何だと思ってるんです?」

オナグルは苦笑する


「まぁいい。お披露目は3日後だ」

「随分急ですね?」

「1か月後に教皇が来ることになった」

「なるほど。その際に妃が必要と言うことですか」

「そういうことだ。お披露目の6日後に正妃との婚姻式を大々的に執り行う。お披露目の翌日には正妃が王宮入りすることになっている。お披露目が終わり次第歌姫は離宮に移せ。それがどういう意味かは分かるな?」

「分かってますよ。正妃として敬い子をなし、この国の秩序を守る。それが俺の役割です」

「王族至上主義を崩すわけにはいかんからな」

「当然です。称号を高く売ってたくわえを削ぐ。ご先祖様は中々いい方法を考えられたと感心しますよ」

「そうだな。おかげで王族は何もせずとも金に困ることは無い。そのためにも正妃の事は対応を誤るな」

「役目は果たすつもりですよ。ただしそれに相応しければですが。『歌姫』を手元に置くためにも必要なことですからね」

オナグルはそう言ってニヤリと笑う


「お前があれを慕っていたのは知っているが…」

「歌姫の歌は俺の精神安定剤のようなもの。もう二度とあの歌を手放したりはしない。それに歌姫の『鳴き声』は俺の征服欲を満たしてくれますからね」

「あぁ、その点は側近が安堵していたな。お前からの理不尽な扱いが減ったと」

王の言葉に苦笑する


「分かっていても止め方が分からなかったもので。悪いことをしていると思ってはいたのですが」

「そういう意味では歌姫を歓迎せねばならんな」

2人はそんな話をしばらく続けた

その会話の中に『歌姫』という言葉は出れど『イモーテル』の名は一度も出ることはなかった

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