閑話2-2

さぞかし不安になっているだろうと思って彼女を見ると、何かを考えている素振りはしているものの不安そうな影は見えない

歓迎されてないことは明らかで、自らのこれからの事を話し合われているにもかかわらず、取り乱す事の無いその姿に感心した

もしパニックになって叫びだしたりでもすればどうなるかわからない

その怖れを肯定するような言葉が歌姫から紡がれた


「不要な人はさっさと追い出しちゃえばいいんじゃない?私少し疲れたみたい。ねぇ、どこかで休ませてもらえないかしら?」

歌姫は恐ろしいことをサラッと言ってのけた

敵対心を持っているとはいえ知っている者に対してそんなことを言えるものなのだろうか?

オナグルはとんでもない人間を召喚したのでは…?

その言葉に疑問を持たなかったのはオナグルと目の前の彼女だけだった

心が強いのか、それともただ鈍いのか、もしくは図太いのか…

結局歌姫は捨て台詞だけを残してオナグルと共に先に出て行った


理解に苦しむ中、彼女はいくつかの質問をした後自ら提案してきた

「ではこの世界で3か月ほど生活できるだけの準備をしていただけますか?」

別の世界から来た女性が一人で、たった3か月で一体何ができるというのか

自殺行為としか思えない提案に苛立ちさえ覚えた


王は思いもしない軽い要求にホッとした表情を見せ、俺達の反論を却下してその提案を飲んだ

自分の所有する別荘と彼女が望む書籍、そして1年分の資金を提供すると決めた


でも王の別荘があるのは辺境の山の麓だ

魔物も出ればこの世界の事を知らない女性など簡単に利用されてしまうかもしれない

騎士が送りはするだろう

でもそこで何も知らない女性が1人で生活するなど死にに行くに等しい

そんなことを許せるはずがない


なにより俺が彼女のそばにいたかった

たとえ俺を見てくれなくても守りたいと思った


だから俺も切り出した

これまで保留にしていた褒賞を

その褒賞として彼女といることを望んだ


拒否されることを恐れたが彼女は受け入れてくれた

移動中魔物も住み着く町だと伝えた時に、自衛手段はあると言った事にも驚いたが、まさかAランクだとは思わなかった

下手したら守ると言っておきながら守られる立場になるところだ

騎士団にいた過去を持ちながらそれは情けなすぎる


「ロキは絶対無理矢理襲ったりしないよ」

面と向かってそう言われて襲うなど出来るはずもない

もっとも大切な彼女を無理に襲う気もないが


「不安がないわけじゃないんだけど…でもロキがいてくれるから好奇心の方が勝ってるかも」

そんな無防備な言葉に思わず抱きしめたくなるのを必死で抑えた


「もうお前のいない日々は考えられないな…いつか…遠くない未来に俺のものになって欲しいと願うのは愚かなことだろうか…」

常に側にいることを許された今、この場を誰かに譲る気などない

少なくとも無防備になれる程度には信頼されている

その信頼がただの家族的なものになるのだけは避けたいと思いつつ、俺は座ったまま目を閉じた

この足の上の重みを失う日が来ないことを願いながら…

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