閑話1-2
どれくらいコルザをなだめていただろうか?
半分現実逃避していた私を戸口を叩く音が引き戻した
「コルザ、お客様みたいだからちょっといい?」
「ん…」
コルザは小さく頷いて私から離れた
その目が不安に揺れていて申し訳ない気持ちが溢れてくる
でも今はお客様の対応が先ね…
「はい?」
「俺だ。ジョン」
返ってきたのはよく知った声だった
「ジョン?一体どうしたの?」
戸を開けると台車を引いたウーまでそこにいた
「何かあったの?」
「ああ。だから来た。カメリア、次の仕事の当てはあるのか?」
「…」
私は無言のまま首を横に振るしか出来ない
有ると答えられたらどれだけ良かっただろう…
「屋敷の新しい持ち主が今後も働いてくれないかといっている」
「え…?」
耳を疑うような言葉だった
「子ども達のことも話した。その上で住み込みで働いてくれないかと」
そんな都合のいい話があっていいのだろうか…
私は夢でも見てるのかしら?
「俺も驚いてる。ウーと最後の片づけをしてるところにやってきて、住み込みでこのまま働いてほしいと言ってきた」
「僕の報酬も出してくれるんだ」
ジョンの後ろからウーが嬉しそうに言う
「それに部屋も屋敷の中なんだよ?食事も付くって!」
「いくら何でも条件良すぎじゃない?」
ジョン達が暮らしてたのは庭の片隅の小屋だった
それが屋敷の中になって食事も付いて報酬も上がるなんて簡単に信じられるはずがない
「言っとくが同情なんかじゃないぞ」
「え?」
「子どもの話を出したのは俺の方だ。それもお前の仕事を評価して継続して欲しいと言ってきた後にだ」
仕事を評価?
そんなことがあるのかしら…?
「子どもの話をしたら大勢での食事が楽しみだと言ってきたくらいだ。その言葉に嘘はなさそうだった」
ジョンがこんな風に言うのは珍しい
基本的に他人を認めない人だもの
「働いてくれるならこのまま荷物運んで今日から住んでいいらしい。俺としてはこれからも一緒に働けるのは嬉しいし、子供達のことも考えたら受けるべきだと思う」
「そう…ね。子ども達と一緒に住み込みで働けるなら安心だし…」
でも
この夢のような話が現実のものだとはどうしても思えずにただ戸惑うばかりだった
「カメリアも住み込みで働くなら母さんのような人がいて僕も嬉しい」
「じゃぁジョンは僕の父さん?」
ジョンとは幼馴染でずっと助け合って生きてきた
特にジョンの奥さんが病気で亡くなってからはウーの面倒も見てきたし、ジョンもコルザたちのことをよく見てくれている
「そうだな。ここにいるよりは助けてやりやすいな」
「…母さん行こう?」
「コルザ…」
「僕もちゃんと手伝うから…」
コルザがこんな風に言うのは珍しい
それだけ寂しい思いをしていたのかもしれない
「そうね。もしダメになってもその時に考えればいいものね」
「うん!」
「よし。じゃぁ荷物を運ぼう」
「荷物って言ってもそんなにないわよ?ここに越してくるときに随分処分したし」
自分で言いながら少し虚しくなる
実際親子4人の荷物が全て2台の台車に乗り切ってしまうのだから苦笑しか出来ない
それでもこの長屋から出られるということにどこかホッとしていた
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