9-4
「ロキ?私何悪いこと言っちゃった?」
沈黙に耐え切れず思わず尋ねてしまう
人には誰でも触れられたくないことがある
私はひょっとしたらそこに触れてしまったのかもしれない
「いや…少し昔話を聞いてくれるか?」
そう言ったロキに頷いて返す
「俺を産んだ母親は俺が5歳の時に他界したんだ。落ち込んだ親父はしばらく引きこもった」
「奥さんを愛されてたのね?」
「ああ。そんな親父をずっと気にかけてくれたのが幼馴染だった義理の母だ」
幼馴染…
どこか不穏な響きに聞こえた
「彼女はずっと親父を慕ってた。だから…母親を亡くした親父にずっと寄り添ってたんだ」
そう言いながらもどこか表情は暗い
「彼女のことは母親も知ってたけど親父が母親一筋で彼女の気持ちに気付きもしてなかったから、波風立てたくない母親は何も言わなかった」
それをそばで見ていた幼いロキはどんな気持ちだったんだろうか…?
「最初は母親が亡くなって付け込んできてって腹が立ってしゃべることもしなかった。でもそれでもずっと親父だけじゃなく俺も気にかけ続けた彼女を恨み続けることは出来なかった」
「それだけ真っすぐ付き合ってくれたってこと?」
「ああ。母親が亡くなって7年後親父が後妻に取って、そのすぐ後に年の離れた双子の弟が生まれた」
「…ロキ5年前に一人になったって…」
「ああ。まだ5歳だった双子も両親と一緒に事故であっけなく逝った」
たった5年でこの世を去るなどどれだけ無念だっただろう?
「双子は俺のことを本当の兄のように慕ってくれた。義理の母も本当の息子のように接してくれた」
そう言ったロキの目から優しさが溢れていた
大切な家族だったのだとわかる
「…カメリアたちを呼ばない方がよかった?」
「いや。むしろ嬉しいかな。弟たちにしてやれなかったことをしてやれる」
「そっか…」
辛くなるのでなければよかったと思う
それでもロキはしばらくカップの中のコーヒーをじっと見ていた
「何にしても、お前といると退屈しなくて済みそうだ」
今までと違う声音でロキは言う
「ジョンにしてもカメリアにしても…おそらく欲して探しても簡単に見つけ出せる人材じゃない。それをお前は簡単に手に入れた。しかも2人ともこの先何があっても自分から去ることはないだろう。極端な話報酬が払えなくなってもだ」
「それは流石に…ないんじゃない?」
報酬がなければ生活はできないのだから
「去らないさ。賭けてもいい」
そう言い切られて逆に困惑する
「ま、これからも楽しみにしてるよ。コーヒー旨かった。明日も動くことになりそうだからしっかり休んどけ」
「わかった。ロキもゆっくり休んでね」
「おう」
ロキは先に上に上がっていった
私はしばらく今日の事を思い返してから自室に戻った
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