6-2

「団長、馬の用意が出来ました」

「ああ、ごくろうさん」

ダビアはそう言って手綱を受け取った


「お前ともしばしの別れだな。元気でやれよ」

馬の首筋をなでながら言う


「暗くなる前に着きたいからもう行くよ」

「ああ」

ロキは言いながら私を抱き上げ馬の背に横向きにのせると自分も飛び乗った

鐙を使わずに飛び乗るとは驚くほどの身体能力だ


私は馬上からダビアに会釈するものの座り方がとてもじゃないが落ち着かない

ロキと密着した体勢に心臓の動きが早くなる

しかも片方の腕は私の体を支えているようだ

「疲れたらもたれかかればいい」

その言葉に頷くのが精一杯だった

どちらかと言えばもう一頭用意して欲しい

流石にそんなわがままは言えなかったけど…




「…ロキ」

しばらく続いた緊張感を紛らわすために話をすることにした


「どうした?」

「私が今から行く場所はどんなところ?」

まだ辺境と言う事しか聞いていなかったからとても気になる


「国境付近に位置する辺境のフジェという町だ。険しい山の麓にあるが気候は穏やかだな」

「治安は?」

「…人が入らない山には魔物が住み着く。そういう意味ではいいとは言えないかもしれないが…」

ロキは言葉を濁らせる

異世界から来た人間をそんな場所に連れていくとなればそれも仕方ない

でも私は魔物程度でしり込みするタイプじゃないのよね


「ふふ…大丈夫。私にも一応自衛手段はあるから」

「?」

「私向こうの世界ではカフェを経営してたの。でも、それまでは冒険者として活動もしてたから」

「どれくらい戦える?」

「ん~こっちの魔物がどれくらいの強さか分からないから何とも言えないけど…向こうでは一応高ランク冒険者と言われるレベルではあったかな」

「…広間でステータスをオープンしなかったのはそれが理由か?」


まさかそこに話が行くとは思わずドキッとした

「…それもなくはないかな。どっちにしても歌姫がない時点で用無しだろうとは思ったし、状況が分からない場所で手の内を全て明かすのは怖いから」


「なるほどな。これは楽しいことになりそうだ」

「どうして?」

「この国は王族が絶対の地位にいる。つまり王族に逆らったりあだなしたりすることはまずありえない」

「…言ってないだけで謀ったわけじゃないんだけど?」

「言わないという選択肢自体が普通は無いってことだ」

「あぁ、なるほど」

思わず頷いた


「多分、王に面と向かってものを言えるのは俺とお前くらいだろうな」

「ロキも?」

「俺は騎士団にいた時に王の命を救った。それ以来王が下手に出るようになった」

「褒美がどうのって言うのはひょっとして?」

「ああ。その時のものだ」

あっさり頷かれた

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