4.ソル エ ユニーク

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「本当に良かったのですか?」

「オリビエ様のお側にいれるのであれば、それはこれ以上ない幸運です」

今の私にそれだけの価値は無いはずなのに即答されて苦笑する


「様は不要です。クロキュス様」

「…では俺の事もロキと。敬語も不要だ」

いきなり砕けた口調に変わった


「ロキ?」

「名付けた親のつけた愛称だ。クロキュスは呼びにくいからと」

「名付けたのに…ですか?」

思わず笑ってしまう

「名付けた当人からクロキュスと呼ばれたのは数えるほどだったか…」

過去形で告げられたその言葉に、それ以上問うのはやめた方がいいだろう


「ロキ、聞いてもいい?」

私も口調を崩すことにした


「何だ?」

「ソル エ ユニークって一体?」

「…」

反らした話題にロキがわずかに視線をそらす


「答えづらい質問だった?」

「いや…ソル エ ユニークはこの世界における”ただ一つのもの”を指す」

「え…?」

「獣人などでは番という言葉が使われる世界もあるようだが…ソル エ ユニークはあくまで自分自身にとってただ一つの大切なものという意味合いがある」

「え…と、それはロキにとって…」

言葉にするのも申し訳ないと感じてしまい続きを飲み込む


「オリビエが俺にとってのソル エ ユニーク、ということだ」

「…!」

はっきり言葉にされ顔に熱が集まるのが分かる

告白されたとか、そんなの比ではないくらい心臓に悪い


「ソル エ ユニークに出会った時は本能で理解するらしい。俺もさっき初めて知った」

「…」

「そんなに構えなくてもいい。会って突然の相手に付き合ってくれとか結婚してくれとかいうつもりはないし、オリビエがそんな心境になるとも思ってないから」

ロキはあっさりとそう言った


「俺は元々騎士の血筋を引いてる。そのせいもあるんだろうけど…今はオリビエを全てのものから守りたいと思う。とりあえず当面の間はこの世界に慣れるよう手を貸すよ」

「…ロキはそれで大丈夫なの?」

ソル エ ユニークがどの程度当人の心の中を占めるものなのかさっぱり分からない

だからこそ余計に申し訳ない気持ちの方が先に立つ

今の私にはロキに対して嫌悪感的なものがないのは確かだ

でも、ただの知人でしかなくそれ以上の感情は一切ない

もちろんこの先どうなるかなんてわからないけど、ロキを特別に想えるのかどうかも分からないのだ


「…ソル エ ユニークの対象は人とは限らないと言えば少しは気が楽になるか?」

「人とは限らない?」

「植物だったり動物だったり…俺の知り合いには宝石、その中でもエメラルドがソル エ ユニークだという者もいる」

「それって…」

「簡単に言えば異常な執着を示す対象かもしれないな」

確かに宝石が何かを返してくれるわけではない

でも異常な執着と言われると逆に戸惑うのはなぜだろうか…


当のロキは特に気にした様子もないため深く考えるのを辞めた

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