3-3

「こちらも一緒にお持ちください。この王宮の連絡先を記載しています。何かお困りになりましたらご連絡を」

「ありがとうございます」

カードのような紙を受け取りマジックバッグにしまう


ここまで準備してもらえたんだから良しとしよう

少なくとも生き永らえることは出来るもの

願いとそれた召喚者が無下に扱われる話は珍しいものじゃない

無かったことにするためにその場で捉えて牢行きなんて世界もある

そんな世界じゃなかった事にはある意味感謝よね


でも、どこでこの人たちの気が変わるかわからないだけに、早くこの場を立ち去りたいというのが正直な気持ちだ


その時ドアがノックされた

オナグルが待ちぼうけだという連絡だった

待ちぼうけって…30分も経ってないはずだけど?


「申し訳ない」

「とんでもありません。こんなに色んなものをいただきましたし…」

「足りないくらいだ。これは別荘の権利書だ。何かあった時の為に譲渡の旨を記した書類も入れてある」

ナルシスはそう言って書類の入った封筒を渡してくれる

念のため中を確認すると言われた通りのものが入っていた


「別荘までは騎士団に送らせよう」

「よろしいのですか?」

「かまわん。町までの道中でこの世界や国のことも説明させよう」

王がそう言うと側近の一人が外に控えていている者に指示を出そうとした


「王、一つよろしいですか?」

それまで何も言わずこちらの様子を伺っていた側近の一人が膝まづく

それを見て指示を出そうとした側近も動きを止めた


「どうした?」

「これまで保留にしていた望みを今申し上げても?」

「…ふむ。何年も考え続けた結果が出たか」

「はい」

「申してみよ」

ナルシスは少し考えてからそう言った


「オリビエ様をお守りしとうございます」

その言葉に誰よりも驚いたのは私だろう

王の側近だろう一人がどこの誰かも分からない、おまけで召喚された私を守りたいなどありえないことだ


「その目…そなたの か」

「はい」

王は少し考えるそぶりを見せた


「それなら仕方あるまい。オリビエ殿、この者が付き添うのは迷惑だろうか?」

「いえ、こちらに知り合いがいるわけではないので誰かがいてくれるならありがたいです。でも王の側近の方…ですよね?」

「あぁ、それは構わん。この世界でソル エ ユニークに勝るものはないからな」

ナルシスはそう言って笑う

王にそう言わしめる が何なのかが分からないだけに反応しづらい

でもそれを聞くのも何かが違う気がした


「クロキュス・トゥルネソル」

「はい」

「今この時を持ってそなたとの契約を解除する」

「…今までありがとうございました」

クロキュスは深々と頭を下げた

王の側近なんて機密情報を知り得る立場の人間がこんなにあっさり解放されるものなのかしら?

普通に考えたら飼い殺しにされそうなんだけど…


「一緒に旅立つか?そなたの事だ、荷物などは全て身に着けておるのだろう?」

「はい。私室に残っているものは処分していただければと」

「わかった。これからのそなたを楽しみにしていよう」

ナルシスは意味ありげに笑いながら私へのあいさつを済ませて出て行った

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