3-2
「召還など簡単にしていい事ではない。その上あなたは巻き込まれただけの被害者だ」
「…」
巻き込まれただけという表現は不快だわ
この人は口だけ大事のように言ってても内心は保身しか考えてないってことかな?
「召喚した者に対してのこの世界での取り決めのこともある。本来であれば1年でも短すぎるのだが…かといって巻き込まれた者を歌姫と同等に扱うほど、我が国に余裕があるわけでもない」
この世界としての取り決めがどんなものかは分からないけど、3か月の保証だけで放り出すと他の国からどう思われるかわからないということなのだろう
結局そっちが本音ってことね
まぁこの国はイモーテルだけで相当な気力と労力がそがれることだろう
おそらく経済的な面でも
元の世界でのイモーテルを知っているだけに、それが元の世界のデフォルトと思われるのは心外だけど…
「歌姫は責任をもって王宮で保護することが出来るがあなたはそうではない。だからせめて出来る限りの事はさせてもらう」
ナルシスの言葉はおそらく彼なりの本心だろうと思う
尤も自分の保身を行う上での出来る限りのことではあるんだろうけど
かといって不満を表に出すのは悪手よね
「ではお言葉に甘えます。ありがとうございます」
私がそう言って頭を下げた時2人の側近が戻ってきた
「この世界の歴史が書かれたもの、法律に関するもの、学院…一定の権力を持つ家の、13歳以上の者が5年間通う学校で学ぶべき一般常識や礼儀作法をまとめたもの、食物に関するもの、薬草に関するものをこちらにご用意させていただきました」
そう言って6冊の本をテーブルに置いた
「ほかにもご希望のものがあればご用意いたしますが…」
「いえ。これだけたくさんありがとうございます。読み終えた際はどのようにお返しすればよろしいですか?」
「返却は必要ありませんのでそのままお持ちください。もし邪魔になれば商人に売っていただければ多少の金銭の足しにはなるでしょう」
「こちらが1年分の生活費です。通貨単位はこちらに一覧にさせていただきました」
そう言って小さなバッグと用紙を一枚渡してくれる
元の世界と通貨単位は違うものの価値は変わらないようだ
ご丁寧に一般的な生活に関する平均価格まで記載されていた
「このバッグはマジックバッグになっております。手を入れれば中に入っているものが頭の中に表示されるのですが…」
言われるまま手を入れる
「お金だけじゃないみたいですけど…?」
表示されたのはお金、結構な量の日持ちのしそうな食料、鍋らしきもの、コンロのような魔道具、調味料だろうもの、水、2種類のポーションが5本ずつ、着替えや下着などまで入っている
「衣類は王宮の侍女に用意させました。サイズが合わないかもしれませんが、間に合わせ程度にはお役に立つと思います」
「何から何までご丁寧に…」
この人たちは根は良心的な人なのだろう
わたしは貰った本もマジックバッグにしまうと顔をあげた
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