3.提案

3-1

「率直にお答えいただき感謝します」

あくまで答えてもらったことに対するお礼だけどね

流石に召喚に巻き込まれたことも、そもそもの召喚の対象やそれを求めた理由も、”はい、そうですか”なんて簡単に飲み込めるものじゃない

でも、ここはとりあえず敵意だけは向けないようにしようと軽く頭を下げる


「他に聞きたいことはおありかな?」

「そうですね。この世界に冒険者という仕組みはありますか?」

冒険者やギルドがあれば当面の生活は何とかなるはず

ただ問題はこの世界が一律で低ランクからスタートするのか、元の世界のように実力相当からスタートするのかってあたりかな

できれば後者であって欲しい

ま、そうでなくても素材を売るのは自由だろうしお金の面では多分大丈夫


「ああ。依頼を受けたり迷宮の攻略で生活をしている者はいる。冒険者ギルドで登録するだけでなれるから冒険者人口はかなり多いはずだ」

「そうですか…それは私のような者でも登録は可能でしょうか?」

「問題ないはずだが…登録する気かね?」

「一応、元の世界ではそれで生活してた時期もありますので」

もちろんそれ以上のことを伝える気はないけど…


「あと、聞きたいことと言うより2つほどお願いがあるのですが」

「願い?」

「はい。自分のこの先について、です」

私はそう言ってにっこりと微笑んで見せる


「…一つの案として聞いてみようか」

側近たちと少し言葉を交わしてから王はそう言った


「ではまず、この世界で3か月ほど生活できるだけの準備をしていただけますか?」

「3か月?たったそれだけか?」

「ええ。その間に自分で仕事を見つけます。衣食住が確保できれば何とかなるでしょうから」

私にはそう出来る自信もある


「あと、この世界や国の事が書かれた本などがあればお借りしたいのですが」

何をするにも最低限の知識は必要だ

ここに置いてもらえない以上、この人たちから教えてもらうのはきっと無理だろう

尤も、置いてもらえると言われても出来れば遠慮したい

そうなると知り合いがいない私は書物からでも知識を得る必要がある


王は側近たちと相談を始めた

5分ほどしてこちらに向き直る

「承知した。その願いはいずれも聞き入れよう」

「ありがとうございます」

意外とあっさり受け入れられた


「王都から少し離れた場所になるが辺境の町に私が個人的に持つ別荘がある。その別荘をあなたに譲ろう」

「流石にそれは…」

「手に入れてから一度も使っていないものだから構わん。書籍は…生活に困らない知識が得られるものをいくつか見繕ってお渡しを」

「承知しました」

側近の1人が頷き部屋を出て行った


「あとは1年生活できるだけの資金を」

「承知しました」

もう一人の側近もすぐに出て行った


「随分優遇していただけるのですね?」

提示したのは3か月

意図的に少なめに提示したものの伸びても半年だろうと思っていた

それから考えれば1年は破格と言える

そこに裏の意図が無いと信じるのはかなりリスキーだけど…

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