第40話
「えー、明日から夏休みに入るわけだけれど、あなた達はもう受験を意識しなければなりません。ですが、勉強だけでは切羽詰まってしまうでしょうから適度に学生として羽目を外しすぎない程度に遊ぶことも大事です。節度を守っていい夏休みを過ごしてください」
先生は、そう言って教壇から下りて教室を去っていく。
そう、明日からは夏休み。窓の外を見ると、空は雲一つもなく澄み渡っている。
そして視線を教室に戻すと教室にいる生徒全員が浮足立って見える。
かくいう僕も浮れているわけだけれども。
今年の夏はいつもとは違う夏を送ることができる気がする。
桜木さんとも友達になったし、花蓮との旅行の約束もある。もちろん、如月とだって遊ぶだろう。
そんなことを思っていると、スマホに通知が二件来る。桜木さんと花蓮からだ。どちらもいつもの場所で待っているという旨だった。
終業日だから、帰る時間が早いし桜木さんは他の友達と遊ぶのかと思っていたけれど、一緒に帰ってくれるみたいだ。
いつも先に待ち合わせ場所にいる桜木さんに負けないように僕も走っていく。
出来るだけ早く走ったつもりだったんだけれど、待ち合わせ場所を見るともう桜木さんは待ってくれていた。
「ごめん、待たせちゃった」
「大丈夫だよ。走ってきてくれたんでしょ?ありがと」
「でも、こんな暑い中女の子を待たせちゃうなんて。ごめんね」
「大丈夫だよ。私は夕顔君を待たせちゃう方が嫌だから。いくらでも待たせて」
「いや、出来るだけ早く来るよ」
桜木さんは優しい。僕に気を使ってくれるみたいだ。
「じゃあ、花蓮も待っているだろうし行こう」
「うん」
二人で歩き始めて十分程度だろうか。花蓮との待ち合わせ場所に行くとやはり先に来ていた。
「ごめんね、花蓮。待ったでしょ?」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「暑いし、早く行こうか」
三人で並んで歩き始める。
だが、なぜだろうか。いつもより二人との距離が近い気がするのは。右の花蓮は手がぶつかりそうだし、左の桜木さんに関してはもうくっついているといっても過言ではない。
あれ?いつもこんな感じだったっけ?
「あ、兄さん。今日、楓を家に連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「え、うん。いいけれど」
「ごめんね、夕顔君。嫌、かな?」
「全然大丈夫だよ。でも少しだけ緊張するかな」
「どうして?」
「女子の友達がが家に来るのって、桜木さんが初めてだから」
「え、あ、そう、なんだ」
そう言って顔を赤らめて、上目遣いで僕を見てくるので、なぜか僕も恥ずかしくなって顔をそらしてしまう。それをみて、花蓮はふふっと嗤う。
そんな少しだけ変な空気の中、歩いて僕の家に着いた。
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