第39話
「ただいま、兄さん」
「おかえり、花蓮」
朝からどこかへ行っていた花蓮が家に帰ってきた。
こんなに朝早くから花蓮がどこかへ出ていくことなんて滅多にないんだけれど。そもそも休日にどこかへ行くっていうことが買い物をするってこと以外ないから、正直びっくりした。
「楽しかった?」
「え?何がです?」
「友達と遊んできたのかなって思ったんだけれど違う?」
「友達.............そうですね。楽しかったです」
一瞬だけ考えるようなそぶりを見せ、ふふっと笑ってそういう。
「兄さん、そういえば夏休みってお暇ですか?」
「夏休みか。今のところは何も予定はないかな」
「そうですか、では一緒に旅行なんてどうですか?」
「旅行?いいね。どこへ行くの?」
「この前に良い旅館を見つけまして、行ってみたいなって思ったんです。ですので行きませんか?お金はすべて私が払いますから」
「え、それはダメ。自分の物は自分で払うから」
「それこそダメです。私が行こうと言ったんですから私が払うべきなんです。兄さんの大切な時間まで消費するんですから」
「だけれど、妹のお金で旅行までいくとか、僕は本当のダメ人間になっちゃうよ」
僕がそう言うと、花蓮はがくがくと足を震わせて頬が赤く染まる。
どうしたんだ?大丈夫かな?
「花蓮?」
「だ、大丈夫です。ダメ人間、ということは私がいなくてはなにもできなくなってしまうということですか?」
「え?まぁ、そうともいうかも」
「そう、ですか」
実際、僕が一人暮らしを始めたら大変なんだろうな。いろいろと。料理なんてまともに作ることができないだろう。
そんなことを思っていると、花蓮が僕に近づいてきて上目づかいで僕の眼をじっと見てきてから抱きしめてくる。
「どうしたの?花蓮」
「ごめんなさい。我慢できずに。もう少しこのままでいいでしょうか?」
「う、うん。いいよ」
僕の胸に鼻を擦り付けて、すんすんと匂いを嗅いでくる。そ、そんなに僕って匂うのかな?
だけれど、花蓮はこのままで良いっていうし。
手持無沙汰でどうにも居心地が悪く、花蓮の頭に手を乗せてゆっくりと撫でる。
そうすると「んっ」という声を上げて、さらに僕にくっついてくる。
「兄さん」
「なに?」
「これからも、そのままでいてくださいね」
「え?うーん、できればね」
いつまでもこのままっていう訳にもいかないだろう。
花蓮にも好きな人が出来て、その人に寄り添いたいって思う日がきっとくるだろうから。そうなる日がくるだろうから、僕も早く独り立ちをしたいんだけれど、花蓮は僕を甘やかしすぎるからな。
こんな兄さんじゃダメだって分かってはいるんだけれど、僕も花蓮に甘えてしまう。
早く独り暮らしをしないと本当にダメになってしまうだろうな。
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