第9話 楓ちゃんは発情期

「あの雲......首が長すぎるキリンみたいだな」


 昼休み、いつもなら如月と食べているところだが、今日は憎らしいことに彼女と食べるらしいので屋上でボッチ飯。


 泣きたい。


「あ、誰かいる......って夕顔君?」

「......桜木さん?」


 ドアを開けて入ってきたのは桜木さんだった。


「なんでこんなところに?」

「私は、いつもこういうところで食べてるから」

「そうなんだ」


 ......地雷ふんだ?


「あ、夕顔君のお弁当手作りなんだ」

「うん。まぁ、僕が作ってるんじゃなくて、妹が作ってくれてるんだけれどね」


 本当に、あの優秀な妹には頭が上がらない。


「桜木さんは、自分で作ってるの?」

「う、うん。私、料理作るの好きだから」


 お弁当箱を開けると、様々な具材がお弁当箱を彩っていて大変美味しそうに見える。


「よ、よければ、食べる......?」


 僕が物欲しそうに見ていると思われたのか、そんな提案をしてくる。


「いいの?」

「うん、食べてくれたら嬉しいな」

 

 「はいっ」といってお箸を渡してきて、思わず受け取ってしまう。


 自分のお箸を使おうと思っていたけれど、受け取ってしまったし、今更返すのもなんだか意識しているみたいで、恥ずかしいので......


「どうですか?美味しいですか?」

「うん。美味しいよ」


 思い切って唐揚げを食べる。


 実際に冷めているのに、肉の旨味が口いっぱいに広がって幸せな気持ちになる。


「良かった、口に合って。卵焼きなんかもどう?」

「いや、でも桜木さんの分が」

「大丈夫だよ。私元から少食だから」


 そう言ってお弁当箱を差し出してくるので、卵焼きも貰う。


「どうかな?」

「美味しいよ」


 少し甘めに味付けをしていて、これはこれで美味しい。


 そして、僕は次を提案される前にお箸を返す。さすがにこれ以上は受け取れない。


「あの、桜木さん。良かったら僕のお弁当食べる?」

「じゃあ、ちょっとだけ頂こうかな」


 僕が何かを言う前に僕のお箸を取って、唐揚げや卵焼き他にもいろいろ食べてしまう。


 本当はお腹が空いていたとか?


「ありがと、美味しかったよ」

「そ、それなら良かった」


 その後は二人で雑談をしながら、昼食を食べ終え、桜木さんはまだすることがあると言っていたのでそこで別れる。


 やっぱり、桜木さんは噂のような人ではないんだなって、改めて実感した。


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 あれ、夕顔君はいつもとは違ってあの......なんだけ卯月君だっけ?と一緒に食べないんだ。


 廊下を何気なくふらついているふりをして、教室内の夕顔君を観察する。

 

 彼は教室から出て、特別棟へ。そして、屋上へと進んでいく。


 一人で、ご飯食べるのかな?


 わ、私も一緒に食べても大丈夫かなぁ。大丈夫だよね?だって、夕顔君は優しいもん。私の事を邪険になんてしない。

 

 数分経ってから、誰も追って屋上に行かないことを確認してそっと何も知らない体で入っていく。


「あ、誰かいる......って夕顔君?」

「......桜木さん?」


 あぁ......胸がトキメク。彼が名前を呼んでくれただけで胸が一杯になる。満たされるってこういうことを言うんだね。


「なんでこんなところに?」

「私は、いつもこういうところで食べてるから」

「そうなんだ」


 嘘だ。


 私は、夕顔君と出会う前までは普通に友達?と一緒に食べていた。


 正直、友達なのかも分からない。


 まぁ、そんなことは今はどうでも良い。夕顔君だけを見ていたい。


 夕顔君はお弁当箱を開ける。


「あ、夕顔君のお弁当手作りなんだ」

「うん。まぁ、僕が作ってるんじゃなくて、妹が作ってくれてるんだけれどね」


 ......嫌な匂いがするなぁ。


「桜木さんは、自分で作ってるの?」

「う、うん。私、料理作るの好きだから」


 よかった、顔を顰めているのがバレていなくて。


 夕顔君の顔を見ると、じっと私のお弁当箱をの中身を見つめていた。


「よ、よければ、食べる......?」

「いいの?」

「うん、食べてくれたら嬉しいな」

 

 だって、私が作ったもので夕顔君の血肉が構成されていくんだよ?それってとっても素敵なことじゃない。


 私は、夕顔君が自分の箸を使う前に箸を渡す。


「どうですか?美味しいですか?」

「うん。美味しいよ」


 よ、良かったぁ。美味しいって言ってくれて。もし微妙な反応されていたらそこから飛び降りてたよぉ。


 そ、それに......ばれないようにそっと使ったお箸を見つめる。


 思わず舌なめずりをしそうになってしまう。


「良かった、口に合って。卵焼きなんかもどう?」

「いや、でも桜木さんの分が」

「大丈夫だよ。私元から少食だから」


 いっぱいそのお箸に夕顔君の唾液を塗りたくって。

 

 それだけで私......もぅ......っ!!


「どうかな?」

「美味しいよ」


 え、えへへ、えへへへへ。


 頭が、ぐらぐらしゅるぅ。

 

「あの、桜木さん。良かったら僕のお弁当食べる?」

「じゃあ、ちょっとだけ頂こうかな」


 その言葉で少しだけ正気に戻り、嫌な匂いがするお弁当の中身を食べる。


 結構、多く食べちゃったけれど、夕顔君は穢されて欲しくない。私が食べないと。


「ありがと、美味しかったよ」

「そ、それなら良かった」


 お箸を戻して、それぞれのご飯を食べる。


 あ、あぁ、わ、私が使ったお箸で夕顔君が……さいこぅ。


 そ、それにこ、このお箸。夕顔君の味がして......


 正直、夕顔君との会話に集中できていなかった。


 彼が屋上を去った後も立つことができなかった。


 コンクリートの床には、シミが出来ていてそれが段々と大きくなっていく。


 午後の授業の事など頭にはなかった。ただ、ただ頭の中にあるのは愛しの彼の事だけで。


 目には爛々とハートマークが色濃く出ていた。

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