第8話 甘えん坊花蓮

「ふぅ、いい湯だった」


 お風呂からでて、リビングに行く。


「お風呂入り終わったよ?」

「こっちに来てください。兄さん」


 言われるがままに、花蓮の近くに行く。


 すんすんと鼻を鳴らして、僕の匂いを嗅いだ後に「合格かな」と呟いて、離れる。 


 学校から帰ってきて早々に、花蓮に「お風呂に入ってきてください。兄さん」としかめっ面でそう言われてしまったので、お風呂に入った。


「そんなに、汗臭かった?」

「そうではないです。汚れてしまっていたので」


 汚れていた?

 

 僕が見えない部分が多分汚かったんだろうな。


「今日は、おやつにプリンをと考えていたんですけれど夕飯も近いので、デザートに食べてください。お腹がいっぱいだったら、明日にでも食べてくれると嬉しいです」

「分かった。ありがと」


 一緒に夕食を食べ、部屋で明日の小テストの勉強をし終わった頃だった。


「いい湯でした」


 そういって、花蓮は僕の部屋に入ってきた。


「ちょ、花蓮?」

「兄さん、髪、乾かしてください」

 

 そう言って、有無を言わさずドライヤーを渡してくる。


「分かったから、そんなにぐいぐい押し付けないで」

「早くしてください。おんなの髪は命なんです」

 

 なら、自分ですればいいんじゃないかという言葉は飲み込む。


 弱風でゆっくりと髪を乾かしていく。


 小さい時によくやってたよな。


「んっ、ふぅ」


 そうそう、こんな感じで目を細めて気持ち良くしていた。

 

 まるで、ネコみたいだよなぁ。


 そう思って、僕は首をくすぐるようにして触ると、「ふにゃぁ」と鳴き声をあげて、気持ちよさそうにしている。


 髪を乾かし終わり、正気に戻ったのかこっちをじっと見つめてくる。


「兄さん......調子に乗りすぎです」

「すんません」

「罰として、今日は一緒に寝てもらいますから」


 そう言った花蓮は僕よりも早くベッドに入ってしまう。


「兄さん、早く」

「はいはい、分かりましたよ。お嬢様」


 ゆっくり、慎重にベッドの中へ入っていく。


「もっと近くに寄ってください」

「熱くない?」

「私は、寒がりなんです」

「初耳なんだけれど」


 なんだか、今日の花蓮は甘えん坊で昔に戻ったみたいだ。


「ねぇ、兄さん」

「なに?」

「私って、可愛いですよね?」

「それ、前にも話したけれど花蓮より可愛い人にはあったことないよ」

「そうですか」


 そう言って、潜ってしまって顔が見えなくなる。


「おやすみ、花蓮」

「…………おやすみなさい、兄さん」


 「まだ、大丈夫ですか」......そう聞こえた気がした。


 


  

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