第4話 太郎

「おはよう、桜木さん」

「おはよう、田中君」

 

 朝から、会いたくない人に遭遇してしまった。


 いつかは、同じ学校だし会うこともあるかと思っていたが、まさか翌日に会うことになるなんて思わなかった。


「まさか、こんなに早く会えるなんて」

「そ、そうだね」


 それはこっちのセリフ。


「あ、あの......ね。本当に昨日はありがとう」

「いいって。もう大丈夫だから。それじゃ」

「え、ま、まって!!」


 そう言って、僕の袖を掴まれる。


 まずいな。人が集まってきているし、みんな何事かと興味津々だ。


「あ、あの。連絡先交換しない?」

「ごめん、僕、急いでるから」


 掴まれている腕をどうにか放してもらい、僕はそこから猛ダッシュで逃げ出し、昇降口を抜け、下履きに履き替え、急いで教室に駆け込み、席に着く。


「おはよう、桜。どうしたんだ?そんなに急いで」

「い、いや、別に何でもないよ」


 普段教室で仲良くしている、如月弥生きさらぎ やよいに声を掛けられる。


 こいつは、別容姿端麗成績優秀という訳ではない。今時のそれなりにおしゃれをしている高校生だ。


「…そうか。それより、今日の数学の課題終わらせたか?」


 若干怪しまれたけれど、まぁ、気にしてくれていないから良かった。


「当り前だ」

「マジ、神!見せてくれ」

「ジュース十本な」

「そこは一本くらいにしてくれよ」

「じゃあ三本な」

「……っく。分かった。分かりましたよ!!三本だ」


 最初に大きく出て、後々小さく出るのは商売の基本なのだよワトソン君。


 如月にノートを見せ、適当に喋っていると段々と教室の雰囲気がおかしくなっているのに気づく。見渡すとこそこそと僕たち、というか、僕の方に視線が向けられている。


 それを如月も感じとったのか僕に視線をよこしてくるけれど、目をそらす。


 そんな、僕を見て僕からは情報を得られないと思ったのか近くにいた男子に話しかけ、驚いた表情見せる。


「お、おい。桜」

「......なんだ?」

「お前、桜木さんと何があったんだ?」

「……なんにも?」

「何にもなければ、お前と桜木さんは噂にならないんだよ」


 話を聞くところによると、やはり朝の事が噂になったらしい。


 やはり、校内でもそれなりに悪い意味で有名な桜木さんとなにかを真剣に話し合っているようにも見えたし、もしかして修羅場なんじゃないか、もしかして子供が......親権が......という噂まで立っていて、いろいろだ。


「はぁ......別に何もないよ。困ってたから助けただけ」

「なるほど?」

「助けて、お礼を言われただけ」

「なるほど」


 納得したような声を出している。


 まぁ、実際助けた結果ああなっただけだし。

 

 人のうわさも75日。そのうち、みんなもわすれていくだろう。


 ......まさか、75日が更新され続けるなんて思わずにそんなことを思っていた。




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