第5話 王族との対話…
さて、どうしますかね?
俺は王宮に着いたが、国王や王族の待つ扉の前で考えを纏めていた。
「俺が魔王を倒すまでの間、勇者達を預かって貰えませんか?」…なんて素直に言っても聞き入れては貰えないだろう。
異世界召喚の類では、召喚をする上で召喚主は色々と犠牲の上に成り立っているという話だ。
それが王族だけの問題で済むのなら問題は無いが、国民を巻き込んでいるとなるとそうは行かない。
…とはいえ、ここで考えていてもらちが明かないし、覚悟を決めますか!
「すいません、開門をお願いします。」
「わかりました! サクヤ殿入られます!」
僕は扉の前にいる騎士に頼んで扉を開けて貰った。
そして玉座の間に入ると、煌びやかな装飾や白い壁や柱、その奥まで続く赤い絨毯に立派な作りの玉座に座るこの国…カスケード城の国王・ランドール国王陛下とサネア王女がいたのだった。
僕は王の前まで行ってから跪いた。
「おぉ、サクヤ殿! 何用か?」
「国王陛下にお願いがあって参りました。」
「ふむ…申してみよ。」
「その前に人払いをしていただけるとありがたいのですが…」
「ふむ…」
国王陛下は手を挙げると、騎士団長と副団長以外の騎士を下がらせた。
「御厚意感謝致します!」
「サクヤ殿、申してみよ…それと普通に話して構わないからな。」
「ありがとうございます。」
俺は咳払いを1つすると話し始めた。
「昨日の件は御耳に入られていると思いますが…」
「小さな獣を始末出来なかったという件か?」
「はい…それでですね、単刀直入にお話致しますが…魔王は俺が倒しますので、俺が帰るまでの間はマサギ達をこの城から出さないでいただきたいと思います。」
「ふむ? サクヤ殿の言葉を疑う訳ではないが…魔王を倒せるという確証はあるのか?」
「そうですねぇ…?」
俺はマサギ達に話した6回の異世界召喚の話をした。
その召喚での世界で、そこを支配する魔王を倒した話も含めて…
「話を聞くだけなら与太話としか思えぬが…今迄の世界を巡って手に入れた聖剣や魔剣、それ以外の武具を見せられては信じるしかないな!」
「国王陛下にも思う所はあるでしょう。 異世界召喚は本来、他者の命を犠牲にするとか、大量の魔力を消費する為に限界まで使用させて昏睡状態になり兼ねないとか聞きますからね。」
「さすがに召喚回数が多いだけあって、その辺の事情には詳しいな…」
「この国の規模を見る限り、大国ではないので…恐らく召喚には国民からの魔力を使用したのではないかと?」
「うむ、その通りだ。」
「そして召喚された者の中には、勇者や聖女や賢者といったジョブを得た者達がいるが、実際には小さな魔物の命すら奪えない臆病者…」
「頭が痛い話だな…」
「まぁ、仕方が無いんですよ…俺の元いた世界というのは、まず魔物はいないし生き物を殺す…という様な事はほとんどしない。 厨房とかにある包丁などは持った事あるでしょうが、使うのは解体された肉や死んだ魚のみで、生きている物を始末するなんて事は無縁の世界でしたから。」
「だから、あの程度の物が始末出来ぬ訳か…」
「先程もマサギと話し合ったのですが、甘ったるい事ばかり抜かしていて…コイツ等を旅に出したらすぐに死ぬと感じました。」
国王陛下は頭を押さえて溜息を吐いた。
まぁ、気持ちは解らない事は無い。
国民を犠牲にして召喚した勇者があんな情けない者達だと解れば、頭痛のタネになるだろう。
「サクヤ殿…何とかならぬものか?」
「国民には発表なされたのですか?」
「それが王家から国民に対する義務でもあるからな…その中には勇者や他の者達のジョブも発表した。」
「それで実際の勇者は、魔物1匹すら始末が出来ない臆病者ですか…期待している国民には話せない内容ですね。」
既に国民に発表していたとは思わなかった。
まぁ、国民が協力して犠牲になって異世界召喚を行ったのだから、王族としては報告をしなければならないよな。
「多分…マサギ達が甘ったるい事を言うのは、俺が原因なんでしょうね。」
「それはどういう事だ?」
「俺以外のマサギ達が召喚されていたのなら、多少の時間が掛かっても魔物を討伐してから魔王を倒す…というのは可能だったでしょう。」
「なら、サクヤ殿が加わると?」
「異世界召喚はベテランで、魔王を倒した事がある者で聖剣や魔剣を所持している…そうなれば、旅に着いて行けば辛い戦いはないだろうし、いざとなれば守って貰えるとでも思ったのでしょう。 だからマサギ達には危機感という物が欠落しているんですよ。」
「では、今後はどうするんだ?」
「俺はマサギ達にはハッキリ言いました。 俺はお前達とは別に行動すると…」
「その理由は?」
「言わなくても分かるでしょう? 奴等の成長を待っていたら、いつまで経っても先に進みませんし、魔王討伐だってそれこそかなり先になる。 召喚された世界が好きで残っていたいと思っている奴ならともかく、俺は元の世界に帰りたいですからね。」
日本でも…魔法は使えない訳では無かったけど、大きな魔法はマナ不足なのか発動はしなかった。
異世界では魔法は自由に使える反面、文明が遅れていて日本での環境に浸かっている者にとって、未開の文明での生活は地味に堪える。
まぁ…元の世界に帰って生活をしていても、またどこかの世界で呼び出されるかもしれないし…それを考えると異世界で暮らした方が良いのかと思う時も無い事は無かった。
だが、家から数分に深夜でも空いているコンビニに、外を出歩いていても襲って来ない魔物、普通に生活している分なら危険な事はほとんどない世界…そんな当たり前の世界が異世界よりは遥かに良いからだ。
まぁ、現実逃避はこれ位にして…国民に発表しているのなら、何とか奮起させないと…このままではマサギ達は国民に殺されかねないからな。
「あ…良い方法を思い付いた!」
「…その方法とは?」
「簡単な事です、俺が死ねば良いんですよ。」
「サクヤ殿が…死ぬ⁉」
俺は説明をした。
この方法なら、マサギ達も真剣に事に当たるだろうと。
そして全てを話し終えると、国王や騎士団長は頭を抱えていた。
「マサギ達の危機感が今一つ足りないのは、城にいる間は騎士達がいるから魔物の侵入は無いと感じている筈。 それは城の外に魔物がいなければという話で、城の外には普通に魔物がいますからね…それが攻めて来たとなれば、マサギ達も甘ったるい事は言ってられなくなるでしょう。」
「だが、それでサクヤ殿が死ぬというのが解らんな…」
「頼れる存在がいなくなれば、次は自分達で何とかしなくてはならなくなる。 副団長、団長が戦いで命を落とした場合、団長不在という事でその任は副団長に委ねられると思いますが…そうなったら上手く出来ますか?」
「初めの内は戸惑う事もあるでしょう…ですが、上に頼れなくなった場合、下の者達に示しが付かない様に振舞わないといけなくなります。」
「という事です! 俺が死ぬという意味を解っていただけましたか?」
「なるほど、理解した…で、その後はどうする?」
「俺はマサギ達に悟られない様に、裏で行動をします。 協力者の情報提供として手を回しますよ。」
「だがいつまでも死んだままという訳にはいかないだろう?」
「そうですね、マサギ達がある程度成長が出来たと判断したら姿を現しますよ。 それまでは…」
国王陛下は無言で頷いた。
この作戦は、やらせと解っていても後味はかなり悪い。
それにこの城や騎士団の評判も落としかねないからな。
国王陛下の承認が取れた以上は、やるしかないだろう。
「作戦決行は、1週間後で! 後は細かい打ち合わせは…その都度で行いたいと思いますが。」
「うむ、あいわかった!」
俺の考えた作戦とは?
その作戦以降、マサギ達に変化は起こるのだろうか?
出来れば作戦決行中に変化が起きて欲しい所なのだがな!
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