第6話 準備期間

 翌日…俺は慌ただしく動いていた。

 1週間後に決行する作戦を考えた結果…準備がかなり必要だという事が判明した。

 何をするのかは伏せて置くけど、この作戦は2回行われる。

 1度目は勝利、2度目は敗北といった展開を予定している。

 そしてそれに必要な駒も用意してある。

 ここまでは良い。


 だが、問題は別にある。

 この城の騎士団の実力だが、レベルはかなり高い。

 接近戦では余程の事がない限り、魔物相手には敗れはしないだろう。

 魔獣となると話は違って来るが、それでも数人居れば対処は出来る。

 それ位の実力を秘めてはいるが…問題は、中距離用の攻撃手段が無い事だった。

 この世界では、剣の刀身にオーラを纏わせて放つソニックブーム的な技が存在しないのである。

 更に魔法と剣技を組み合わせるという発想もなく、只々肉弾戦のみの戦いだった。


 「こんな状態で、ソニックブームなんて放ったら…どうなるんだろうな?」


 恐らくは…芝居の最中だというのに、仕掛け人の騎士ですら動きを止めてしまう可能性があるな。

 俺が用意した駒は、隙は見落とさないで攻撃を仕掛けるから、途中で呆けていたりしたら危険だ。

 となると…教えておくか。

 後から色々説明されるのも面倒だし、先に…そうだな?

 騎士団長と副団長には前もって教えておくか。

 そうすれば、他の騎士からの質問は全て2人の団長に行くだろう。

 教えると言っても、現実世界では無い。

 この世界で教えても、少なくとも数日から1週間以上は掛かる。

 なので修業に最適な空間を用意するのだ。


 「あの空間が現実世界と時間の流れが一緒なら苦労はしねぇんだけどな…」


 嘆いていても仕方が無いから、とりあえず現実を見よう。

 俺が用意する駒は、最低でもオーラを纏わせる事が出来ないと倒せない可能性がある。

 まさか出来ない世界があったなんて思わなかったが…これは仕方ないか。

 まぁ、かくゆう俺も…刀身にオーラを纏わせる技を習ったのは2回目の異世界召喚の時だったし…あの当時の事はあまり思い出したく無いな。

 

 「サクヤ、何か忙しそうだけど…どうしたんだい?」

 「別に…」


 マサギは昨日の事は別に気にして無い感じで、いつものイケメンフェイスで話し掛けてきたので、俺は素気なく答えた。

 流石に昨日の今日で、何か思う所があるのだろうが…それに付き合ってやる程暇じゃ無い。

 可哀想だとは思うが、ここは敢えて突き放した態度を取らないと理解が出来ないだろう。


 「僕はサクヤの力になりたいんだ!」

 「間に合っているし、お前じゃ無理!」

 

 そう言ってマサギから離れようとした。

 いつもならマサギに素気ない態度を取ろうものなら、ミクが不機嫌な態度で話し掛けてくる…と思っていたが、そんな事は起きなかった。

 訓練場の方を見ると、ミクは必死に素振りをしていたし、ユウトもマミもミクほどでは無いが頑張っている感じだった。

 で? この男はここで何をしているんだ?


 「マサギ、お前は一体何をしているんだ?」

 「今迄素振りをしていたけど、サクヤの姿を見掛けて声を掛けたんだ。」

 「ミクやユウトやマミは頑張っているのにか?」

 「僕は…素振りも大事だとは思うけど、身体を鍛えるのなら効率の良いやり方があると思うんだよ。」

 「例えば?」

 「重量トレーニングとかね。」

 「フルプレートの鎧を借りて来てやろうか? それ着て走れば、重量トレーニングには充分だぞ!」

 「騎士が着ている鎧かい? アレは…僕の趣味じゃ無い!」

 

 コイツは何を言っているんだ?

 趣味とかどうこういう前に、身体を効率良く鍛えたいんだろ?

 

 「じゃあ、マサギは何をもって効率良くとか考えているんだ?」

 「鉄アレイとか、ベンチプレスとか無いかなと?」

 「ある訳ねぇだろ! この世界では、鉄アレイの代わりに素振りをするんだよ。 最初は木刀から始めて、次に銅の剣で…そして最終的には鉄や鋼の剣で素振りをするんだ! 少しずつ重さを変えて行ってな!」

 

 マサギに足りないのは危機感じゃ無かった。

 根本的な何かが抜けているんだ。

 ダメだ…コイツと話していると頭がおかしくなりそうだ!


 「とりあえず、木刀で素振りしてこい…数は1日5000回だ。」

 「5000⁉︎」


 つい頭がカッとなって命令したけど…5000回って少な過ぎたかな?

 まぁ、あの馬鹿には丁度良いだろう。

 俺は残りの準備をする為にその場を去った。

 

 「後は鎧の確認とかだが…修業場で確認で良いか! あそこなら、時間はあまり関係無いしな。」


 俺は騎士団長と副団長に声を掛けた。


 「任務の為に、この場を離れる訳には参りません!」

 「夜なら…当直では無いので時間はありますが。」

 「国王陛下には許可を貰っています。 本の1時間程度ですが…」

 「「それ位なら!」」


 俺は召喚魔法である、修業場を召喚した。

 修業場は、1つの大きな塊で中の時間の流れは外とは違って緩やかに流れるという場所なのだ。

 だとすると、空間魔法の一種じゃ無いかという人もいるが…修業場は生き物なのである。

 クジラだったか? とてつもなく大きくて確認した事はなかった。

 だから召喚魔法で呼び出せるのだった。

 そして…騎士団長と副団長に、ソニックブーム系の技を教えた。

 元々剣技や体幹がしっかりしている2人なので、ソニックブームはすぐに体得出来た。


 「後は何かあったかなぁ…? マサギの馬鹿な発言の所為で、考えが頭から消えかけていたからな。」


 まぁ、こんなものか?

 後は細かい所はその都度見て行こう。

 そんなこんなで1週間後…遂に作戦が決行されるのだった。

 

 「さて…マサギ達はどう動くかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る