第4話 さて…如何しますか?
俺の読んだ魔王に関する書物にはこう書かれていた。
【空の魔宮を支配する空の魔王、大地の深き場所に位置する場所で城を構えて守護する地の魔王、深海の底に居城を構える海の魔王…それら3つの魔王を倒して鍵を手に入れると、時空の中にある魔王城が姿を現すだろう…】
「地の魔王はまぁ、どうなるとして…空の魔王も召喚獣で何とか向かえるだろうが、問題は海の魔王だな。 深海って…数メートルという規模じゃないだろう?」
以前の召喚時にも海底にいる魔王の配下というのはいた。
その時は海に住む召喚獣で向かったが…海中での戦闘は骨が折れた。
結局、海中で戦う事を諦めて…海底にいる魔王の配下を燻りだす為に海を汚して怒らせて出てくるという手を使った。
その時の配下は見事のその策にはまって出現したのだ。
海底と言っても深海ではないのでそれ程苦労はしなかったが、今度の敵は深海という話だからどうやって対処するかが鍵になる。
「駄目だ、考えるだけでは煮詰まるだけだ。 気分転換をするか…もしくは王族達に話をするかだな。」
王族達との話…それは俺が旅をしている間は4人を匿って貰えないかの相談をする為だった。
昨日の4人の失態は、騎士から国王に話が通っている筈だから…説明する手間が省けるだろう。
「国王が気分を害して変な方向に話が行かなければ良いのだが…?」
その可能性があるから非常に怖い。
王族からしてみれば、あらゆる物を犠牲にして召喚儀式を執り行ってから、来たのは勇者を含む3人の素晴らしいジョブ…だけど実態は、魔王どころか魔物すら倒せるかどうかも怪しい者達だ。
どう足掻いてもハズレを引いたという事は否めないだろう。
こういった王族の場合、今迄の世界では必ずって言っていい程…無茶な行動を起こしたがる物だ。
この世界の王族が過去の世界の王族と一緒とは限らないが、落胆は大きいだろうな。
俺は書庫室から出て王宮を目指して歩いていると、中庭が見える廊下を歩いていた。
すると4人が素振りをしている姿が見えた。
俺の目とマミの目が合うと、マミはマサギに声を掛けてから俺の元に走って来た。
「サクヤはどこかに行くのかい?」
「王宮にな…お前達の事を頼みに行くんだよ。」
「それなんだが、少し待ってくれないか?」
「少し待つって、どれ位だ?」
「僕達はあれから話し合ったんだ。 最低でもあれくらい出来ないと魔物を倒すなんて無理だという事にね。」
「良く気付けましたーおめでとーございまーす!」
「サクヤ茶化すな!」
「それで…とどめを刺す仕事は僕やユウトがして、女の子達にはやらせない様にしようと…」
はぁ…コイツら全く分かってないな。
山にキャンプに行って食材を確保する為に生き物を殺すというのとは訳が違うんだぞ。
聖戦士は主体は武器での攻撃になるし、聖女だって魔法での攻撃も可能だ。
殺さない様に気絶させる程度の攻撃をしてから男性陣がとどめを刺すって…どれだけ効率が悪い事を話しているか分かってないのか?
「マサギさぁ…お前達の覚悟ってその程度か?」
「何か間違っていたかい?」
「ミクの聖戦士は武器での攻撃が主体になる…始末が出来ないから殴って気絶をさせるというのは、まぁいいだろう。 で?」
「その隙に僕がとどめを…」
「人間の場合なら、後頭部に衝撃を与えれば気絶はするだろう…が、魔物の場合がそんなに上手く行くと思っているのか? 個体にもよるが殴られてもその場では気絶していてもすぐに復活する奴もいるし、何より動いている物を確実に気絶だけさせるってかなり難しいぞ。 それは俺でも無理だからな。」
「なら魔法では?」
「魔法にも気絶させるとか行動不能にする魔法は存在するだろう。 だが確実に有効とは限らない…何故ならこれも個体によるが、気絶耐性を持つ魔物や効かない場合もある。 何より、魔法で確実に当てられるという保証は無いぞ? お前はボールを動いている奴に投げて確実に当てられるのか?」
「無理…か?」
「そりゃぁ、10球投げれば何回かは当たるだろうが…10球投げて10球当てられるくらいのコントロールが無いと、その方法は成立しないぞ。」
これは…本気で解らせないとダメだな。
こんな甘い考えでは、絶対に生き残れないし…また帰還する時は1人になるかもしれないからな。
「旅の最中に魔物と出遭いました。 魔物が向かって来ました…さて、魔物達は何を考えて行動しているでしょう?」
「そんなの…解らないよ。」
「はぁ…魔物の多くは、生きる為に捕食して喰う! 奴等は自分の命を賭けて向かって来る。 他にも自分のテリトリーに侵入してきた者を排除するとかな。」
「なら、そのテリトリーに近付かなければ…」
「じゃあ、その規模がどの程度の広さか解るのか? 奴等は人の姿を見付けたら確実に襲って来るぞ…自分の家族を守る為や仲間を守る為にな。 もしくは食料の確保の為に死に物狂いでな。」
「それはあくまでも可能性の話だろ?」
「確かに可能性の話ではある…だが、そうなった場合…お前達はどう対処をする? 女性陣に気絶の攻撃をさせてから、男性陣がとどめを刺すか? その動作を奴等の仲間に見られていたら? それを見て逆上して群れで襲って来たら、同じ戦法を取るのか?」
「それは…その時の状況にならないと分からない。」
「いや~素晴らしいね! 一瞬の迷いが死に繋がるこの世界で、その時の状況になってから対処するか…甘ったる過ぎて反吐が出る!」
流石にマサギも堪えたのか沈黙していた。
すると長いこと黙っていたマミが口を開いた。
「不知火君も最初から全てが出来たわけじゃ無いでしょう?」
「そりゃね、魔法や剣術だって初めの頃はおぼつかなかったしな…」
「そういう事じゃなくて、昨日私達にやらせた小動物の命を奪う行為よ。 初めから出来なかったでしょう?」
「あぁ、その事か…それなら答えはNOだよ。 俺が最初の召喚の時は1人だったという話をしたよな? その時は生きる為には…いや、生き残る為には他者の命を犠牲にする事を学んだよ。 まぁ…躊躇や躊躇いがないと言えば嘘になるが、それでもすぐに始末は出来たな。」
「可哀想とか感じなかったの?」
「マミはさぁ、優等生だから…窮鼠猫を噛むという諺はわかるよな? 可哀想とか考えて躊躇すると、奴等も襲って来るんだよ。 その場合、マミは襲われたら抵抗せずに殺されるのか?」
「・・・・・・・・・」
ダメだな…根本的に考えが甘過ぎるんだ。
ゲームやラノベでは、魔物を倒せば消滅してから経験値や素材が手に入るで片付けられるけど…詳しい詳細までは表示されないからなぁ。
魔物に刃物を突き刺す…魔物は激しく暴れ出してこっちに悲しみと憎しみに似た目付きで睨む。
皮を突き破るとそこから溢れだす大量の出血、だがそれでは死なないから更に深く突き刺すと、骨に当たりゴリっとした感覚が手に伝わって来る。
魔物は悲痛な叫び声をあげるが、それで止めるわけにはいかない…魔物の息の根を完全に止めるまで何度も刃物を突き刺す。
飛び散る鮮血に生温かい血飛沫と鉄臭さと獣臭さの匂いが立ち込めて…なんていう表現がされていれば少しは違ったのだろうか?
まぁ、倫理関連の問題があるからそこまで表現されることはないだろうけど…
「言っておくが…その甘い考えを捨てない限り旅なんかまず無理だし、旅をしたら確実に誰かが死ぬか全員死ぬ。 その辺が理解出来ないと、何を話しても無駄だ。」
「さっきから気になったんだけど、サクヤは一緒に行動をしないのか?」
「する訳ないだろ! お前らに合わせていたら、いつまで経っても進まないし帰れないからな。」
「君が旅に同行してくれなかったら、僕らはどうしたら良い?」
「だからその為の話をこれから王宮に行って王族に話をするんだよ。 俺が魔王を倒すまでの間、お前達を預かってもらえないかという為にな!」
「僕達は…足手まといか?」
「今気付いたのか? 全員が全員同じ事が出来ないと、旅に出てもすぐに死ぬぞ。」
「なら、僕達が出来る様になれば考えてくれるかい?」
「それは何年待てば達成出来るんだ? 5年か? 10年か?」
「そんなに待たせないよ。 すぐにでも行動をして…」
「無理はするな。 期待に応えようとして行動を起こすのは愚か者のする事だ。 それに俺はお前達の事は全く信用もしていなければ、信頼もしていないからな。」
俺はそれだけいうと、王宮に向かったのだった。
マサギはあぁ言っていたが…恐らくすぐに行動は出来ないだろう。
さて…王族との話はどうなるだろうか?
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