第3話 謙虚に学ぶ者たち(サバイバル編)
やっとミクが起きたので、これからは武器攻撃の授業に入る事にした。
…と言ってもやる事は大してない。
俺は4人に木刀を渡して素振りをさせるだけだった。
「いいか、木刀の握りは右手が上で左手が下。 大きく振りかぶってから木刀が背中まで着いたら、それを一気に振り下ろす…これをやって今日は終わりにしよう。」
「具体的に何回振れば良いんだい?」
「倒れるまでずっと。」
「具体的な数が無くて、ひたすら素振りしろと言われても…」
「なら、百万回振れと言われたら振れるのか?」
「うっ…」
どうせこんな事を命じたって、1000回振れれば良い方だ。
そうだな、気持ちが続かせる様に忠告だけはしておくか。
「言っておくが真面目にやれよ~手を抜くのは構わないが、死ぬぞ!」
俺はそう言うと、地面に寝そべってから腕を枕にして寝始めた。
暫くすると、マサギが音を上げたので起きてみると夕方になっていた。
マサギもユウトもマミの3人は床にへばっていた…が、ミクだけはまだ続いていた。
明らかに汗だくで疲れている表情ではあったが、それでもまだ続けられていた。
一番最初に音を上げるのがこの女だと思っていたが、ジョブの聖戦士がここまで出来るまでの加護があったのだろう。
「おい、ミク…そろそろ辞めて良いぞ! 言っておくがこれが後1週間続けるのでそのつもりでな!」
「僕やミクはともかく、ユウトとマミは後衛だろう? 素振りは意味があるのか?」
「ユウトとマミは、最終的には杖になるが…だけど基礎体力造りとして素振りは効果があるからやらせているだけだ。」
「だが…そうなったら前衛の僕等が守ってやれば良い事だろ?」
「やれやれ…マサギは甘い考えをお持ちの様だ。 あのなぁ、魔物が襲ってくる場合、1匹や2匹で来ると思っているのか? 集団だと、少なくとも20匹の群れで来る場合だってあるんだぞ、そうなった場合…マサギとミクだけで対処が出来ると思っているのか?」
「それは…」
「数匹は引き付けられるだろうな。 だが、引き付けられる数以上は、ユウトとマミを襲うぞ。」
「その時は2人だったら魔法で対処は出来るだろうから…」
「魔法とて万能じゃない! 離れているなら狙う事も出来るが、極度に接近された場合は魔法の発動が出来ずに殺されるのがオチだ。」
「その為の僕が居る! 僕が引き付けていれば…」
「じゃあ、前だけ集中していて背後や側面から襲われたら? 敵によっては真上から襲って来る者だっている。 そういう奴等にはどうやって対処する?」
「そ、それは…」
「マサギ、お前の言っている事は…ジョブの力を過信して真っ先に殺されたかつてのクラスメートと同じ事を言っているんだよ。 いいかぁ、ここはゲームの世界じゃない。 死んだらコンテニューなんて無いし、怪我したら一生治らない場合だってある。 下手すると、腕や足が欠損する場合だってあるんだ。 甘い事を言い続けるのなら、お前等はこの城から出ずに俺が魔王を倒す迄待って居ろ。」
「すまないサクヤ…僕が甘かったみたいだ。」
「いや、お前はまだ事の重大さに気付いてない節があるな。 口では何とでも言えるが、実際に魔物を前にして同じことは言えないだろう。」
マサギは落ち込んだ。
こればかりは仕方が無い事だ。
魔物全てが凶悪な顔をしているとかなら躊躇いも無いだろうが、魔物の中には地球のウサギの様な物や猫の様な物迄いる。
最初の頃は生きる為にという理由を付けて、涙を流す小動物を殺したんだよな。
あれは今でも目に焼き付いていて、あれらの小動物を殺すのは躊躇いがある。
試してみるか?
「この周辺で小動物的な魔物がいる場所はありませんか?」
「それなら城から出た森の中にいますが…ご案内しましょうか?」
「宜しくお願いします。」
俺は騎士に言って、近くの森まで案内をして貰った。
そして見た目が可愛らしいウサギを見付けると、麻痺魔法で動きを止めてから袋に5匹を放り込んだ。
城に戻ると、休憩していたみたいだったので幾らか動ける様になった4人がいたので呼んだ。
「どうしたサクヤ…その袋は?」
「この袋の中に、お前達用の教材がある。 これからお前達にはダガーを渡すから、これにトドメを刺してみろ。」
袋からウサギを取り出すと、ウサギは愛くるしい顔をしていたが、4人の持つダガーを見ると怯えた表情を浮かべて涙を流していた。
「不知火、あんた正気なの⁉」
「あぁ、何か問題があるか?」
「こんなに可愛いウサギを殺す事なんて出来ないわ!」
「そうだ、それに別にウサギじゃなくたって、魔物になら問題は無い!」
「ならユウトに聞くが、この世界の魔物が全てコイツ等と同じ顔をした愛くるしい姿だったら、このウサギは無理でも他の魔物は殺せるんだな?」
「う…それは…」
「お前が言っているのはただの言い訳だ。 このウサギだって、見た目はこんなだが…獰猛で人を襲う場合だってあるという話だ。 そうだよな、騎士殿!」
「あぁ、これはまだ幼体だが…成体になったアルミラージは人を襲う習性がある。」
「だそうだ、わかったのなら心臓を貫いて楽に死なせてやれ!」
4人はダガーを持ったまま固まっていた。
やれと言われて簡単に出来る物ではない。
だが、生きていくには必要な場合もある。
魔物を倒す…簡単に言えば、生物の息の根を止めるという事だ。
この程度が出来なくて、外の魔物が倒せるかと言えば多分無理だ。
「なぁ、サクヤ…魔法で殺すというのもありか?」
「魔法でねぇ? 出来るならやってみろよ、ユウト…」
魔法なら直接手を下さないから楽だとでも思っているんだろうか?
魔法で命を絶つのは、ダガーで心臓を貫くよりも難しいのだが?
はたしてユウトは、その事に気付くのだろうか?
「お前に恨みは無いが…」
そう言ってユウトは炎を出現させると、ウサギに向かって放った。
だが、案の定…威力が低すぎてウサギの命を奪う程ではなく、ウサギは悲痛な叫び声を上げていた。
そしてそれにつられて、他のウサギたちも一斉に泣きだしたのだった。
これで益々トドメが刺し難い状況になった訳だが…果たしてどうなるのか?
「ほら、時間が無いんだから早くトドメを刺せ!」
「そんな事言ったって…」
「お前達さぁ…旅先の食料はどうする気だ?」
「それは街で肉を買って持って行けば…」
「マサギは本当におめでたいな…ここは日本じゃねぇんだぞ! 日本だったら、隣の町まで1日掛けて歩けば着くが、この世界ではどんなに近くても最低3日で、離れていて1週間以上掛かるとして…街で買った肉がそんなに持つ訳ないだろ!」
「なら、その場合はどうすれば良い?」
「それが今の状況だ。 生きる為なら魔物を殺して食料を確保する。」
「なら、魔物を倒して肉を得る方を選択する。 だからこのウサギは開放して…」
「またお得意の逃げの言い訳ですか! こんな小さな生き物の命も奪えなくて、外の魔物の命を奪える訳がねぇだろ!」
俺は溜息を吐きながら言った。
マサギとユウトはウサギを見つめているだけだが、ミクとマミは震えながら涙を流している。
まぁ、最初に出来るとは思ってはいないが…このままだと埒が明かないな。
「わかった、手本を見せてやるよ!」
俺はそう言ってウサギの首を掴むと、ダガーをウサギの心臓に刺して殺した。
殺したウサギを4人の前に放り込むと、口から血を流して絶命しているウサギを見て震えだした。
さらにウサギたちも甲高い声で泣き出した。
「手本は見せてやった…早くやれ!」
「僕は…出来ない!」
「マサギは以前言っていたよな? 僕達には素晴らしいジョブの恩恵があるとか…この程度の事も出来なくて、何がジョブの恩恵だよ。 じゃあ、お前のジョブの恩恵って何が出来るんだ?」
「くっ……」
「それにお前等こう思ってないか? このまま時間が過ぎれば、やらなくても良いとか…悪いがトドメを刺す迄はお前等を開放する気は無いからな。 魔王を倒して元の世界に帰ろう…だったか? このままじゃ到底無理だな。」
ミクとマミは完全に泣き出して座り込んでいた。
ユウトも先程炎を放ったウサギを見つめて固まっていた。
マサギも行動を起こしてウサギを押さえつけてはいるが、ダガーを持った手がこれ以上動いていなかった。
まぁ、思っていた通り…最初から出来る訳がないか。
いずれは出来る様になる…だろうが、それはいつになるのかねぇ?
「早くしてくれねぇか? ウサギの声がうるせぇんだよ!」
「うぅ…う…うぅ…」
あらら…とうとうマサギとユウトも泣き出したか。
これは限界だな…仕方ない。
「お前達が待ちに待った言葉を聞かせてやるよ! もう良いから、ダガーを地面に置け!」
4人は安堵の息を吐きながらダガーを地面に置いた。
俺は持っていたダガーで泣いているウサギに1匹ずつトドメを刺して行った。
トドメを刺されたウサギを見た4人は震えているだけだった。
「サクヤはどうしてこんな事を平然と出来るんだ?」
「慣れだよ、慣れ…まぁ、次はどうするかねぇ?」
「次はって…どうするんだ?」
「これ以上、魔法の特訓や剣の特訓をしても仕方が無いという意味だ。 この程度の事も出来ないで、よくもまぁ打倒魔王なんて口に出来たな?」
「サクヤはどうするんだ?」
「俺はこれから情報を集めて旅に出る。 魔王は俺が倒してやるから、お前等はこの城にでもいろ…王族達には話は通しておいてやるから。」
俺は殺したウサギを持って城の厨房に行ってからウサギを渡した。
ウサギはこの城でも大事な食料には変わりがない。
俺は食事を済ませてから今後の事を考える事にした。
「あいつ等とは上手くやっていけそうな気がしたが…どうやら見込み違いだったみたいだな。」
俺は城の書庫室に行ってから情報を集めた。
この世界…結構厄介そうな場所だという事が分かった。
「さてと、あぁは言ったが…マサギ達はどうするかねぇ?」
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