東横線
目を疑った。
彼が、私の向かいに座っていた。
なぜ彼が、この電車に揺られているのか。
彼は、私の知っている彼とは様変わりしていた。色が入って長くなり、きれいにセットされた髪。トレンドを取り入れたファッション。そして、左手の薬指には銀の指輪。
でも、かつての面影がそこにはあった。見間違いと思いたかったが、右眼の下には泣きぼくろ。間違いなく、彼だった。
学生の頃、一年ほど付き合った彼を振った。彼が少しだけ出した我儘を許せなかった。
いま考えれば、私のほうがよっぽど自分勝手だった。私は彼のやさしさに付け込んで、自分の考えを押し付け続け、挙句の果てに、彼にひどい言葉をぶつけて、その関係を切った。
彼がそれから私に話しかけてきたのは、卒業式の時だけだった。それも一言だけ。関西の企業に就職するらしいと聞いたのは、それを見た私の友達からだった。
それから私は東京で就職した。人はこんなにいっぱいいるのに、彼よりも愛せる人は誰もいなかった。
彼は武蔵小杉で降りて行った。
隣に座っていた、私と同じ、長い髪をした女性と一緒に。
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