ホワイトデー
ホワイトデーをすっぽかされた。
たしか去年もそうだったし、ここしばらくの彼の動向を見ていても、全く不思議ではなかった。
大学2年に付き合い始めた同い年の彼は、先輩に誘われて、会社を興した。一緒に大学を卒業したあとも、彼は大学院生という形でモラトリアムを満喫しつつ、先輩と一緒に会社で寝泊まりしているらしい。
就職を機にひとり暮らしをはじめた私の家には、月に1回ぐらい、しかも夜遅くにやってきて、布団に潜り込んで寝るだけ。朝になったら出て行ってしまうので、そういうことも、もう長い間、ない。
そんなことを会社の飲み会終わりに田園都市線に揺られながらぼんやりと考えていると、会社の後輩からLINEが来た。
「今日は飲んでたんですか?」
「そうだよ、今帰りの電車」
「今から飲み直しませんか?」
一瞬迷ったが、彼への当てつけのような気持ちもあって、OKの返事をした。
1時間ぐらい待つと、その後輩はやってきた。わざわざ赤羽から飛んで来たらしい。
「先輩とどうしても話がしたくて」
彼は私に好意を持っているようだった。どんな人が好きなのと訊けば私みたいな人と言うし、私に彼氏がいるのかについても探ってきた。何なら、終電を逃したから泊めてくれないかとまで言ってくる。
さすがに家に泊めるのは断ったが、ひとり、家の電気をつけながら、少し先の未来について考えた。
私は、彼とこのまま付き合い続けるのが幸せなのか、それとも、彼の好意を受け入れるほうが幸せなのか。
彼がうまく化ければ、私はお金持ちの妻になれるかもしれない。でも、うまくいくかは賭けみたいなもの。かたや、私も後輩も上場企業の社員。月並みから少し背伸びした幸せを望むなら、彼との未来を考えるほうが堅実な気もした。
ホワイトデーの夜。日付が変わって15日。結局、何の連絡もよこさなかった彼に、どうしてもいじわるをしたくなった。
「私のこと、今でも好き?」
返事は、返ってこなかった。
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