不器用

「西野くんって、すごく不器用なところあるよね」


 会社の送別会で、先輩にそう言われた。

 決して世渡りがうまいわけではないけれど、人並みには仕事ができて、「中の上」ぐらいのスピードでキャリアは積んできたはずだから、きっとそういうことじゃないんだなと思った。


 まるでわからないという風に「どういう場面でそう思ったんですか」と聞いてみたら、うまくかわされた。

 思い当たる節はひとつだけあるのけれど。


 僕は本当に恋愛が下手だと思う。何がよくないのかはわからないけれど、うまくいっていたはずの関係も、いつしか疎遠になっている。仕事や勉強は要領よくこなしてしまうのに、恋愛だけが、うまくいかない。


 二次会に行っても、家に帰っても、先輩のことばが頭の上で回り続ける。


 もうほとんどあきらめているのに、彼女が同席する打ち合わせがある日には、ちょっとおしゃれに着飾ってみたりしている自分がいる。望みを捨てない自分に、嫌気がさす。


 これからたぶん、彼女とは年単位で会わない。もしかしたら、このあいだの打ち合わせが今生の別れだったのかもしれない。


 今夜も眠れなさそうだなと思いながら、部屋のあかりを消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る