覚束ない〜赤点〜(文芸)
あかりはひどく憔悴した様子だった。
覚束ない足取りで部屋 から出てきて、そのままソファに身を預ける。
「ああ……」
そんな音があかりの口から吐き出される。
「大丈夫か、あかり」
おずおずと尋ねると、あかりは緩慢な動きで誠太を見た。
その目が「大丈夫に見えるか」と言っているようで、誠太は黙り込む。
やがて小さく唇を開いたあかりは、その潤いを失った唇で一言。
「赤点だった」
誠太は内心で思う。「だろうな」と。
正直、誠太はあかりの赤点回避はどう頑張っても覚束ないと思っていた。
普段ならば精一杯勉強を教えている誠太だが、今回はどうしても部活の遠征があって、あかりのテスト勉強を見てあげられなかったのである。
迎えたテスト当日。
大丈夫を連呼するあかりの背中のなんと覚束ないことか。
そして案の定、凄惨たる有様である。
「ごめん、あかり」
「謝らないで……わたしが悪いの」
―――まあそうだけど。
「誠太の助けなくてもできるって、わたし証明したかったのに」
―――それはとても無理だと思う。
「ごめんね、誠太」
―――謝られても。
彼女の、まるで世界を救えなかった漫画のヒロインのようなセリフを聞きながら、誠太は次の追試もこのままでは覚束ないな。と冷静に思った。
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