第3話 だいたい18歳までの競争《ゲーム》 (1)
17歳まではサラリーマンのような不安定な生活など耐えられないと思っていた。医学を
日本での小学校から高校卒業までの12年間の初等・中等教育プログラムは、試験と成績によって評価されるゲームのようなものだ。北米ではK-12と呼ばれる同じ12年間でもその内容は異なっている。国や地域によってルールは違うが、日本においては、このルールやゴール、その先に何があるかは説明されずに参加させられている印象がある。義務教育という言葉の先頭の2文字がネガティブに作用してしまっている。
日本ではこのゲームをより極めた者には、進路においてより多くの選択肢が与えられると認識されている。参加者の多くはそれを期待をしているだろう。ほとんどのアジア諸国でも同様だ。日本だけが特別なわけではない。偏差値が高い選択肢についていえば、選択できる者が限られるため希少性は高いことは間違いない。しかし高い偏差値に価値があると考えることは間違いだ。ある命題の逆は必ずしも真とは限らない。価値は他者が認めて初めて生まれる。
僕が転職活動をしていた時に採用を断られた時、先方の担当者から間接的に『前職の企業が有名すぎて我が社では使いにくい』というメッセージが伝わった。そもそも最初から圧迫面接で採用する意欲など感じられなかった企業だった。面接に呼んだ時点で言い訳は決まっていたのだろう。属性によって選択肢は広がるかもしれないが、逆効果になることもある。属性は属性だ。評価する相手によってはネガティブな効果を発揮することだってある。
とはいえ価値を最大化する戦略として選択肢の中から自分の特性とのマッチングを重要した選択を行うことが最善ではあるだろう。もちろん選択できる選択肢は多い方がいい。成績が良ければ選択肢が広がる場合は多いだろう。問題は自分の特性とのマッチングは自分自身では当然にはできないことだ。自分のことは自分では良く分からない点がネックになる。
より希少性の高い選択肢を選べる実力を身につけた者が、このゲームの勝者だとすれば、勝つことで与えられるものは、その進路でしかない。その結末の保証などないのだ。せっかく希少性の高い選択肢を含めて幅広い選択肢を与えられたのに、安易に選択したその道から逸れまいと必死になってしがみつく人達がいる。
12年間で習得した絶対的な正しさを提示する教科書と試験によって支えられる箱庭でしか通用しない力を生かそうとしても、この社会でそれが発揮できる場面はほとんどない。
優秀とされる人達が相手の目の色を伺いながら行動を決定し、実力を測るはずの試験は分析・攻略の対象になっている。別に不思議なことはない。経済的利益が最大化するよう行動を決定しただけだ。考えるよりも利益が最大化するように行動することでこのゲームに勝利できる。
ゲーム攻略に自身を最適化した人間は、社会そのものをハックし、自己実現のためにシステムが想定していない方法で利益を得ようとするのかもしれない。短期的には機能する戦略だと思う。しかし長期的にはどうだろうか。果たして機能するだろうか。
信じられないほど成功した後に引退した高齢者が、長年引きこもった高齢の子供を手にかける事件が報道されている。子供にマッチングを無視し、ただ希少性が高いだけの進路を選択させた結果、悲劇的な末路に行きついたと報道されている。親として子どもに成功を体験させたい気持ちは理解できるものの、そんな理想的な親としての行動だったのだろうか。自分の老後の資金を供給するための道具として、最大限効果的な役割を果たせるように誘導したかっただけではないのだろうか。
コンピュータに対して人間は柔軟で曖昧な入力に対して適切に推論し反応ができる汎用万能機械といえる、この世で唯一無二の存在だ。ある程度のミスマッチは許容され、動き続けることができる。しかしミスマッチから生まれる抵抗によるストレスに晒されることで、長期的には問題が生じることもある。
真の勝者となるためには長期的に機能する行動パターンを獲得することが必要だと思うのだけれど、そんな合意はどこにもないようだ。短期的な成功を繰り返すだけのある種の成功者という存在を動画サイトなどで確認し続けてきた若者達がどんな行動パターンを身に付けるかを考えるとあまり良い想像はできない。短期的な経済的満足をただ求める機械のような生き方はして欲しくない。
もちろん自身の技術を活かしたいと純粋に思う心をそのままにしておけるほど世の中は甘くない。エンジニアであれば自分の技術を活かすために、常に要求の達成に必要な+αの新しい知識・技術を身に付ける努力が必要だ。場合によっては苦手なコミュニケーション能力だって発揮しなければいけない。そういった理解のない人達がエンジニアになってしまい持久戦に疲弊している。
もっと自分自身への理解を深め、マッチングを重視した選択をするべきだ。
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