第332話 ツルツルな肌

 僕の冷え切っていた体は、筋肉を動かしているおかげで温まり、まだまだ戦えそうだ。一日か、二日は動き続けても構わない。だが、さすがにブレーメンさん達の体調が心配だ。


 なんせ、裸でこんな寒い所にいたのだ。魔物たちは寒さを感じないかもしれないがブレーメンさん達は生身の人間。凍え死んでしまう可能性だってある。皆さん、仰向けになっているので口にゴブリンの血が入らず窒息は免れていた。耳に入る血は我慢してほしい。


「くっ……。父を倒した力は本物だったか……。だが、きさまが倒したのは万の軍全の数一〇○体にすぎん。きさまの体力が付き、腕が上がらなくなる時まで、ゆっくりじっくり殴り続けてやる。その雌もきさまの目の前で犯し、泣き叫ぶところを存分に見せてから殺してやる」


「やってみるがいい。出来るものならな。彼女たちは僕の大切な冒険者仲間であり、僕が応援している冒険者さん達だ。そうやすやすと倒せると思うなよ。ゴブリンロード、お前は首を洗って待っていろ。ここにいる魔物をすべて倒して最後にお前を倒してやる」


「くっ! 強がりはやめておけ。恥をかくだけだ。行け、下部達。叩き潰せ!」


 ゴブリンロードが叫ぶと、敵の数がさらに増えた。


 剣戟を使って一斉に倒してもいいが、天井が崩れてブレーメンさん達が潰れたら終わりだ。大群は太刀筋だけで倒す。


 僕は剣を振り続けた。一時間、二時間、三時間……。長い間、剣を振り続けていると、地面に寝ころんでいた誰かが眼を覚ます。


「え、なになに……。な、な、なな……何が、どうなって……」


 目を覚ましたのはブレーメンの中で一番背の低い女性だった。青い髪に黒色の血液が付着していると思ったが全然付いておらず、綺麗なままだった。


「フォーリアさん、眼が覚めたんですか。丁度よかった。僕の眼を洗ってください。視界が悪くて仕方がなかったんです」


「こ、コルト君なの……」


「はい。コルト・マグノリアスです。出来るだけ立ち上がらず、寝た切りになっていてください。剣が当たると危ないので」


「け、剣……? 剣なんてどこにも……見えないけど」


『ギャギャギャ!』


 フォーリアさんのもとに三体のゴブリンが向かった。僕はすかさず剣を振り、ゴブリンの首を飛ばす。


「な、首が……」


 僕は半径五メートル圏内の間合いを維持し続けていた。ゴブリンが入ったら切る、ゴブリンが入ったら切る、ゴブリンが入ったら切る、と言う具合に地面を何度も移動してゴブリンを倒し続けている。


「ふ、普通の人間の動きじゃない……。コルト君、スキルでも使っているの……」


「いや、僕はスキルを持っていないので、これが素です。そろそろ視界が黒く染まり始めているので、眼を洗ってもらえると助かるんですけど……」


「ご、ごめん。そうだった。今、水を出すよ」


 フォーリアさんは僕の顔の目の前に水球を出現させてくれた。固定の場所に水を出現させられるようになっているとは……。凄い成長だ。


 僕は水球に口を着け、水を含む。口の中に入っていた血を洗い流したあと水分補給をして、目を付け、ゴブリンの血を洗い流した。


「ありがとうございます。これでよく見えるようになりました。フォーリアさんの綺麗な肌もしっかり見えます」


「へ?」


 フォーリアさんは自分が裸だと知らなかったのか、視線を下げる。すると黒い血に浸っているものの、魔力の質が水属性に加え全身から魔力を放出させるほど魔力量をほこっているため、フォーリアさんの体に血液が付着せず滑り落ちていた。


 その結果、綺麗な透き通る肌が保たれており、生まれたての状態を僕にさらけ出している。


「ふぎゃあ~!」


 フォーリアさんは右手で胸を左手で股間を隠し、後ろを向く。


 先ほどまで黒い血が付着していたはずのお尻を僕の方に向けるが、体が油の膜でも張っているのかと言うほどツルツルで綺麗な状態を保っていた。


 フォーリアさんにとっては黒い血で纏われていた方が幸せだったかもしれない。


 僕は特に何も感じないのだが、フォーリアさんが僕の方に視線を向けると涙目になっており、恥ずかしいんだろうなと少なからず思ってしまう。


「か、体なんて全然見えてませんから、気にしないでくださいね。僕、視界が黒かったのでよく見えてませんでした」


「いや、眼を洗ったあとに見てたし、普通に私の体が丸見えだったでしょ! 今さらそんなこと言っても遅いよ! と言うか、この状況はいったいどうなっているの! 私達、ゴブリンの巣を見つけて少しだけ潜入調査をしてたら、敵に見つかって……そのまま、身ぐるみ全部はがされて魔法で眠らされてた所しか覚えてないよ!」


「それで目を覚ましたら、周りがゴブリンだらけで、年下のカッコよすぎる男に全部見られてたと……」


「ララ! 良かった。眼を覚ましたんだね!」


「フォーリアの肌、ツルツルすべすべすぎでしょ……。ゴブリンの血が全くついてないじゃん……。私はベタベタで全身ゴブリンの血で最悪な状態なのに……」


 ララさんも目を覚ましたが、フォーリアさんほどしっかりと喋れていない。声が震えているのからすると、寒さで凍えているようだ。


 魔力の多いフォーリアさんは寒さに強いのか、すでに顔色も褐色が良く、通常に戻っている。

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