第331話 万の軍 対 一人

「きさま……。我の父を殺した男だろ……。昔よりもさらに強くなっているとは……」


 ゴブリンロードは睨みを利かせ、僕の方を見てくる。


「ロード。そこにいる四人の女性を助け出させてもらう。子供と雌は弱いんだろ、手を出すな。父親に言われなかったのか」


「人間とゴブリンを一緒にするな。こいつらは……生贄だ。新鮮な人の雌の血を杯に入れ、魔王様への敬拝を示す。邪魔をするな……。そうして我は父を超え、魔王様と世界の人間どもを消し去るのだ!」


 ゴブリンロードは両手を広げ、オッドアイの眼を見開く。


「なにをわけわからないことを言っている。なぜ魔王と言う単語が出てくるんだ」


「上位の魔物には聞こえるのだ……魔王様の声が……」


 ゴブリンロードは頭上に手を持ち上げ、崇拝しているかの如く拝んでいる。


――どうする。奴を倒すためには手前のゴブリン達を倒しながら、人質にされている四人を保護し、安全を確保して戦わないといけない。僕があまりにも不利だ。


「魔王は何と言っている……」


「世界を滅ぼす……。準備を整えよ……。何もかも奪い、新たなる世界を生み出すのだ……と、我の頭に語りかけてくださっているのだ……」


 ゴブリンロードは祈りを終え、僕の方に向き直した。


「あの者は邪魔だ。一斉にかかって殺せ。もちろん、お前は動くんじゃないぞ。動いたらこの雌共を即座に殺して魔王様へに捧げる生贄になってもらう」


『ギャギャギャ!』×大量のゴブリン、魔物。


 ゴブリンロードが命令すると大量のゴブリン達が僕の方に向って走ってくる。


「人質を取るなんて、王の癖に卑怯な手を使うじゃないか……」


「勝つために手段は択ばない……。特にお前は強いからな。姑息な手でもいとわん」


「ふぅ……。そっちがその気なら、僕にも考えがある」


「ん……?」


『ドガッツ!』


 僕は身を屈め、地面を思いっきり蹴り、眼の前にいた無数のゴブリンの頭上を飛び越えてゴブリンロードの体にポロトの剣を即座に突き刺した。


『グハッツ!』


 玉座は崩壊し、ゴブリンロードの体が後方の岩壁にぶつかる。蜘蛛の巣状に岩が砕け、ゴブリンロードが口から黒い血を吐き出す。


「き、きさまぁ……。いったいどうやって……」


「話している余地はない。死ね」


 僕はゴブリンロードに止めを刺そうとした時、手下のゴブリン達がブレーメンの方達に錆びたナイフを突き刺そうとしていた。


 ゴブリンロードを切り裂いてから向かっては間に合わないと思った僕はポロトの剣を引き抜き、四体のゴブリンの首を刎ねる。


 四人の気絶した女性を運ぶという荒業を僕は持ち合わせていなかったので周りを敵に囲まれた。


 個体数の分からない状況で想像もつかない。この状況で女性を守りながら戦うのは流石に不利だ。でも、人質は一瞬で取り返した。あとは僕の努力しだい。


 僕はポロトの剣が壊れないのを祈る。この剣が折れてしまったら、守れる者も守れなくなってしまうのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。まさか、最速で殺しに来るとは……。いったいどれだけの距離があったと思っている……、我の位置にまで一緒んで移動するなど、普通の人間が行えるわけがない……」


 ゴブリンロードは、僕が作った傷口を再生させ、立ち上がる。


「だが、きさまの全方位を囲い、無能な人間を四人も従えながら、我が集めた万の軍勢に勝てると思っているのか」


「倒さないとブレーブ村とキセキ村が危険だ。おとなしくしていてくれると言うのなら、話合ってもいい。無駄に仲間を殺されるか、はたまたここで全滅するか。どっちがいい」


「いい気になるなよ。我が攻撃を受けたのは油断していたからだ。もう、油断はしない。数の力できさまをねじ伏せる。あとで泣いて誤ったとしても許しはしない」


「そっくりそのまま返そう。僕だって泣き言を言われても容赦しない。戦うと成ったら全滅させるまで動き続ける」


「出来るものならやってみろ……。行け、我の下部たち!」


「ギャギャギャ!」×大量のゴブリン。


「ゴブリン達から魔石を取ってキセキ村の人達の臨時収入にしてやる……」


 僕はポロトとの剣の柄をギュッと握り、四方八方から迫りくるゴブリン達の首を切り裂いていく。


 一体、二体、三体と……切り伏せるたびに黒い噴水が作られ、首のないゴブリン達が地面にバタリバタリと倒れていく。


 地面が岩っぽいので黒い血液がしみこまず、僕の足首が血で埋まりそうになる。だが、液体は土の壁に吸い込まれて行き一から二センチくらいの水溜まりのように黒い水面が保たれた。


 僕が脚を動かすたびに、水音がジャバジャバと鳴り、足裏が生暖かい。においはすでに慣れていたおかげで特に気にならないが、一週間は子供達に嫌がられるかなと思いつつも、倒さなければならないと言う使命感に従ってゴブリンを倒し続ける。


 僕がゴブリンを倒せば倒すだけ、地面に死体が転がっていき、脚の踏み場がなくなる。そのため、死体を蹴って壁際に寄せ、四方八方から攻め続けられるゴブリン達の猛攻をしのいでいく。


 普通のゴブリンだけではなく、ウィッチゴブリンやハイゴブリンなども混ざっており、いいお金になりそうだ。またしても魔石を取るのが大変そうだが、ブレーメンさん達もいるので、人でには困らないと思う。


「ギャギャギャ!」


「ズバズバズバズバ!」


 三体のゴブリンを薙ぎ払いで倒す。三本の噴水が一瞬生まれた。


「ギャギャギャギャ!」


「ズバズバズバズバズバズバ!」


 四体のゴブリンを薙ぎ払いで倒す。四本の噴水がまたもや生まれた。


「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!」


「ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ!」


 ゴブリン達の数が増えれば増えるだけ、僕の剣を振る回数は増える。毎日素振りをしておいてよかった。腕の力が衰えるどころか、洗礼されているような気さえする。

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