第329話 ゴブリンロード
「もう、安心してください。近くにいたゴブリンは倒しました」
「う、うぅ……。うぅ……」
女性は声が出せないらしく、苦しそうなうめき声だけが聞こえる。
細く骨ばった手で僕の手を握り、少々握ってきた。まだ死んではいないが死んでいてもおかしくない衰弱状態だ。
「モモ、冒険バックを置いて行くからこの人達を看病して。これだけの女性を攫えるだけの力を持っている集団だ。全く油断できない。周り入口以外に出入りできる場所はないから、少しは安全のはずだ」
「ご主人様は今からどうするおつもりですか?」
「僕は先に進む。モモはこの場所で女性たちの応急処置をしながら待機していてほしい。この人達をこのまま置いていけない」
「わ、わかりました。気をつけてくださいね。ゴブリンとは思えない悪臭がまだ漂って来ています。嗅いだ覚えが無いので、私には見覚えのない魔物です」
「ありがとう、必ず戻ってくるよ」
僕は一室をあとにして進んでいた方向に歩いていく。
ポロトの剣の柄に手を置いていつでも鞘から抜け出せるようにしていた。
引き抜いたまま歩いてもよかったが、両手が必要になった時、剣を持っていたら危険だ。なので少しでも長い間、両手を開けておく必要がある。
「どれくらい進んだかな。モモから離れて二○分くらい歩いている気がするんだけど。迷路みたいに入り組んでいるからな。もう少し下に行けば魔物がいるのだろうか」
僕は歩く速度を少しずつ速めて行った。ゴブリン達をちょくちょく見かけるようになり、切り裂いていく。
どれも雄ばかりだ。雄のゴブリンは倒しておかなければならない。比較的雌よりも雄の方が強いのに加え、強くなりやすい。
始めは弱くとも時間がたてばたつほど強くなる。魔物は人と同じように成長するのだ。
ブラックトロントやギガントタルピドゥも元は普通のトロントとタルピドゥだ。
自然発生した魔物と性行によって生まれた魔物の二種類の内、進化しやすいのは性行によって産まれた新しい魔物だ。
理由は定かではないが産まれてきた魔物は進化し、上位種になる可能性が高い。
そのため、ゴブリンなどは見かけたら倒しておくべきなのだ。そうしないと二次災害が起こる場合がある。
お人よしの僕には酷な話なので、危険の少ない雌と戦いを知らない子供は生かしておきたい。僕のせめてもの慈悲だ。
「ギャ、ギャ、ギャ!」
雄のゴブリンが吠え、攻撃してくる。足音からすると複数体いる。
「ん……。数が一気に増えたな。いったいどうしてだ。もしかしたら、何か近づかせたくないのかもしれない」
僕は攻めてくるゴブリン達を倒す。今のところはゴブリンしかいないので、それほど苦戦していないが、数が相手だとさすがに疲れてくる。
先ほども戦っていたばかりなので、数で攻めてくるのはやめてもらいたい。そうはいっても魔物に言葉が通じないので、攻められている以上は倒すほかない。
「はっ!」
僕はゴブリン達をズバズバズバッと切り裂いていき、ゴブリン達の首が飛ぶ。視界がすでに暗いので吹き出る黒い血はただの液体に見えた。
五体、一〇体、二○体、四○体と増えていき、もう、何体のゴブリンがいるのか想像できない。
先ほどまで全然ゴブリンがいなかったのは地下の方にいたからなのか……。
僕はゴブリンを倒し続け、明かりのある方向へと進む。
少しずつ視界が開けていき、ある空間に出ると視界が一気に広がり、明るい。
眼を細め、入ってくる光を調節するとマグマが煮えたぎるように地面が燃えていた。
僕の侵入に気づいたのか、ゴブリンの大群が僕の方を向き、ギャギャギャっと声をあげ始めた。
地面が燃えている理由は油による燃焼だと思われる。
動物や魔物の死骸や骨が転がっているので、間違いなさそうだ。
僕は鼻が曲がりそうになるのを堪え、周りを見渡す。
僕のいる空間は天井が高く、とても広かった。僕の屋敷がすっぽり入ってしまいそうなの大きさで、庭を作る余裕すらある。
広い空間の奥には大きな石の玉座があり、見覚えのある魔物が座っていた。加えて、僕の知っている人達が縛られて膝間づいている。衰弱しきっており、意識があるのかわからないが、まだ死んではいなさそうだ。
「お前……。人間……。あの時の人間……」
全身が黒っぽい緑色をしており、下半身だけ部族がつけるような前掛けをつけている魔物がいた。
身長は三メートルほどだろうか。座っているのでよくわからない。
見かけは通常のゴブリンを巨大にして太らせたような体格で風格がある。
「喋った……。魔物が喋るなんて普通あり得ない。ゴブリンの上位種か。見かけからしてお前はゴブリンロードだな」
「俺は王だ……。ゴブリンの王。ゴブリンの王の息子だった者だ……。お前に殺された、王の息子だ」
「ゴブリンの王の息子……」
僕は思い出す。一〇年前、キセキ村に現れたゴブリンロードを倒したとき、命乞いをされたのを……。
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