第328話 モモと魔物の巣に潜入

「魔物達はどこに向かうんだろうか……。少しでもいい情報が手に入ればいいんだけどな」


 僕は引いていく魔物達を見ていた。


「違う種族の魔物達が行動を共にしていること自体不自然ですよ。普通同種族としか、行動しないじゃないですか」


 モモは上着を羽織り、冒険バックを背負う。


「そうだよね……。あの魔物達は何かしらに従っている。だから、あれだけの個体数が協力して動けるんだ。つまり、大量の魔物を従えさせられるだけの親玉がいる」


「そうなりますよね……。ブラックトロントとか、ギガントタルピドゥみたいな魔物がいると思ったほうがいいです?」


「うん。そう考えた方が自然だと思う。だから、モモは付いてこなくてもいいって言ったのに……」


「私はご主人様と共にどこまでもお供します。仲間ですから」


 モモは寒い中笑顔を僕に見せて来た。その表情はとても暖かい。


「仲間か……。そうだね、仲間だもんね……」


 僕はモモと共に生き残った魔物たちを追った。


 すると、魔物たちが岩を退かして地面の穴の中に入っていく場面を見つけた。魔物の足跡は雪で埋もれており、モモの鼻が無かったら尾行は難しかっただろう。


 遠目から見ると雪で隠されていてわかりにくいが地面に穴が開いており、大きな石で蓋をして穴を隠してあった。


 穴の入り口はキセキ村から南西に向って二○キロメートル地点。その位置はブレーブ村から北西に向った二○キロメートル地点とほぼ重なっていた。


 雪に足跡やモモがにおいを感じ取れなかったのを考えるとこういった入口が森の中にいくつも作られているのだろう。今回は僕達を尾行から撒くためにあえて遠い場所を選んだに違いない。


「ご主人様、ゴブリン達が地面に潜っていきました。私達も行きますか?」


「もちろんだよ。あと、今からカンデラの明りは消す。モモの鼻と耳が頼りだから、僕の眼が暗闇になられるまでモモに少し頼るよ」


「はい。任せてください。私がご主人様を安全に牽引します!」


 僕はカンデラの明りを消し、ゴブリン達が周りにいないことを確認して岩をどける。


 人一人が丁度入れるくらいの大きさの穴に僕は体を入れる。体を全て入れると重力によって落ちた。


『ズシャッツ……』


 床は少々濡れており、足音が響く。


 どれほど落ちたかわからないが、少なくとも五秒以上は穴の周りが地面だった。


 五メートル以上下の地面に着地すると、かなり広い道が作られていた。


――地面の中に剣が容易く振れるだけの空間をつくり出すなんて……。


 僕が辺りを見回していると、上の方から何かが落ちてきた。僕の顔に何やら柔らかい脂肪と、ムワッと香る汗の匂いが合わさった物体がのしかかってきた。


「も、モモ?」


「ご、ごごごご、ごめんなさい、ご主人様」


 モモが穴から落ちてきて僕の顔に運悪く当たって地面に衝突した。


 僕はモモに押し倒され、お尻で踏まれている状況だ。


 匂いからして体調は悪くない。汗も掻いている。脱水気味になる前に水を飲んでもらったほうがいいか。


 僕はモモを退かせ、地上に置いてある冒険バックをあらかじめ結んでおいた縄で引っ張り、穴に落とす。音と振動で位置を把握し、手に取った。そのまま冒険バッグの中から水筒を取り出し、水を飲んでからモモに渡す。


「モモ、水分補給をして。脱水症状になったら体の動きが悪くなる。ここからはいつ死んでもおかしくないよ。気を引き締めて行こう」


「は、はい」


 モモは水を飲み干し、辺りを警戒していた。


 洞窟の中にゴブリンや他の魔物の気配はなく、僕達だけだ。


 モモは僕の手を取ってスタスタと歩き始めた。


 僕はモモを信じて静かについていく。


 洞窟を進んでいくといくつもの分かれ道が作られていた。すべての道に何かあるのだとしたらどれだけ広い区間に巣を作ったのだろうか。


 以前のゴブリン達の巣はここまで大きくなかった。少し進めばゴブリン達が出てきて戦ったのだが、今回は一〇分以上歩いても道が途切れず、未だに歩き続けている。


「モモ、敵の視線は感じる?」


「いえ……、今のところは全く感じません。私はゴブリンの臭いがきつい方に向って歩いてます。こっち側に多くのゴブリンがいるはずです」


 モモは鼻が良い。僕の鼻ですら曲がってしまいそうな程臭いのにモモは躊躇なく鼻を鳴らし、ゴブリン達の位置を探ってくれている。凄く頼もしい。


 僕はモモを確実に守るため、身を引き寄せられるように少し近づいておく。


 洞窟の中もかなり冷え込んでおり、あつい防寒着を着ていなかったら容易に凍ってしまいそうだ。手足の感覚はあるが筋肉の硬直は感じる。どうしようもない寒さの中、僕の視界も少しずつ慣れてきた。


 洞窟の中を進んでいると、なだらかな斜面になっており、さらに深く潜っていく。


 道幅も少しずつ広がり、大群が集まっても収納できそうだ。


「ん……。ご主人様! 人の気配があります。ブレーメンの方達とは違いますがまだ生きているようです」


「よし。助けに行こう」


 僕とモモはとある木の板の前にやってきた。中からゴブリンのような声とすすり泣く声が聞こえる。


 今の僕は完全に暗闇に慣れ、視界は悪いがゴブリンの姿は見えるはずだ。


『ドガッツ!』


 僕は木の板を蹴破り、中に入る。すると外からは想像もできないほど広く、一〇体のゴブリンと裸体の女性が五○名ほど捉えられていた。


 視界が悪く状態は確認できないが、声がかすれ、呼吸も浅いのから察するに、女性たちの様態は悪いと思われる。


 僕は仲間を呼ばれる前にゴブリンの一〇体を瞬殺し、意識のはっきりしていそうな女性に声をかけた。

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