第327話 魔物達の撤退

「ブロオオオオオオ!」


 ミノタウロスは大きな石斧を振りかざしてきた。棍棒のような腕に血管が浮き上がるほどの腕力から繰り出される攻撃が僕に打ち込まれる。


「ふっ!」


 僕は石斧の攻撃を最小限の移動でかわす。


『ドガガッツ!』


 地面に衝突した石斧は地面をへこませ、地割れを作るほどの威力をほこっていた。


「はっ!」


 僕はミノタウロスの右腕をすかさず切り裂き、石斧を無力化する。


「ブロオオオオオオオ!」


「なぜ攻めてくるのかわからないけど、人を攻めるなら倒される覚悟があるんだよね。いや……、死ぬ死なないの問題が分かるのなら、攻めてこないか」


 ミノタウロスは腕を切られ一瞬ひるんだが、突進攻撃へと行動をすぐに移してきた。


 僕はミノタウロスの体内にある魔石を割らないように、突進攻撃をかわしてから首を掻っ切る。黒い血しぶきが舞い、ミノタウロスの首が飛んだ。


「ふぅ……。いい感じだ」


 回りの冒険者さん達はゴブリンを倒すことで手一杯になっており、僕の姿を見ていなかった。


 ただ、休憩中のマリリさんだけは僕の方を見ており、ボーっとしていた。


「マリリさん! 何をボーっとしているんですか! キセキ村の一大事ですよ! 気を引き締めてください!」


「え……。あ、はい! すみません!」


 マリリさんは赤色のガラス瓶を取り出し、蓋を開けてゴクゴクと飲み干す。


――もう少しで押し返せそうなんだけど……今の人数じゃ難しいな。あと一人くらいいれば行けそうか。


 僕はミノタウロスの持っていた石斧を持ち、いったん下がる。すると、丁度いい時にモモが戻ってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ご主人様、キセキ村にいる怪我人は皆、ギルド内に運びました。お医者さんが治療してくれているので、一安心です」


 モモは両膝に手を置き、息を整えていた。


「ありがとうモモ。じゃあ、モモも戦闘を手伝ってくれるかな。丁度いい武器があるし」


 僕はミノタウロスの持っていた石斧をモモに渡す。獣人族の力なら、両手で持って振りかざせばそこそこ強い武器になるはずだ。体調二メートル越えのミノタウロスが地面にたたきつけても折れなかった斧だ。モモの力でもそう簡単には折れないだろう。


「わかりました。これを使って戦えばいいんですね!」


 モモは斧を持って重さや力の入り具合を確かめる。縦にブンブンと振り、少々微笑んだあと、冒険者バックを地面に置き、上着を脱いでオークのもとに突進していった。あまりに判断が早い……。モモにオークが倒せるのだろうか。


「はああああっ!」


「グオオオオオ!」


 僕の心配も束の間、瞬きをした次の瞬間にはモモの持っている石斧とオークの持っている棍棒がぶつかる。


『ドガッツ!』


 オークの持っていた棍棒が吹き飛び、体勢まで崩されていた。モモは即座に後方へ回り、倒れ込むオークの背後から、首目掛けて斧を振りかざす。


『ボガッツ!』


 オークの首を刎ねると石斧が地面に当たり、ミノタウロスよりも大きな凹みを作った。どうやらモモにはミノタウロスを超える力が備わっているようだ。


 あまりにも一瞬の出来事で僕は少々引いているのだが、モモが嬉しそうな表情を浮かべているのでよしとしよう。


「はは……、モモちゃん、凄い力……」


 マリリさんは僕より数段引いていた。さすが獣人族とでも言わんばかりの力に恐怖しているように見える。


「マリリさん、魔物たちを追い返します。魔物がこのように軍をなして襲ってくる理由が何かあるはずです。なので引いていく魔物を追いかければ巣があるかもしれません」


「確かにそうですね。コルトさんの言う通り、巣があるかもしれません。見つけられればいいんですけど……」


「大丈夫です。手下は親玉のもとに一度帰って行きます。そう言った確証があるわけではありませんが、親玉の命令を聞かないと魔物は自分で行動できませんからね」


「そうですよね。じゃあ、私は魔族の大群を引かせる役目を貰います」


 マリリさんは杖を構えて呪文を唱え始めた。どうやら、詠唱で短縮した魔法ではなく、魔法本来の力が出せる呪文で攻撃するようだ。


『偉大なる水の精霊よ、その力によって氷槍を具現化し、村を脅かす魔物の頭上に解き放て! 『アイスランス』』


 マリリさんの体が淡く光り、魔物たちの頭上に一メートルほどの氷槍が出現した。浮かんでいる氷槍は魔物たちの頭部に突き刺さり、黒い血を噴出させる。


「凄い、三分の一以上の魔物を一気に倒した。マリリさん、魔法を扱うのが上手なんですね」


「はぁ、はぁ、はぁ……。一回の魔法でMPと魔力がもう空になってしまいました……。もう、MPポーションが無いので、すぐには魔法が放てません」


「これだけの数を削ってもらっただけでも十分です。魔物は後方にますます引きさがっていくと思います」


 マリリさんは魔法によってMPをすべて使ってしまったらしく、跪いて汗をだらだらと搔いていた。


 魔法使いは魔力とMP(マジックポイント)が切れるとただの人になってしまう。魔力量は人それぞれ違い、MPは全員一〇〇と決まっている。なので魔法使いはもとから魔力を多く持っている人物が優遇される傾向にあるのだ。


 魔力とMPが切れたマリリさんはもう、戦えない。


「マリリさん、あとは僕達に任せて後方にさがってください。今のマリリさんがいても戦いの邪魔になります」


「はい、わかりました。あとはお任せします」


 マリリさんは僕達に頭を下げ、はいはい歩きをしながらキセキ村の中に戻っていく。立ち上がれなくなるほど頑張っていたようだ。僕達も見習って働かなければ……。


 僕とモモ、他の冒険者たちは魔物たちをあらかた倒し、キセキ村を襲う敵は後退した。


 他の冒険者達は疲れからか、しゃがんで息を整えている。僕とモモは魔物の後を追い、どこに向かうのかを調べる。


 魔物は南西の方向に移動していった。

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