第325話 ブレーメンさん達の捜索

「もし『ブレーメン』の四人が雪で埋もれていたらどうなる……。雪に埋もれてから助け出せる時間は三○分くらい。さすがに今から助け出すには時間がなさすぎる」


 僕は屋敷の広間で時計を見ながら円を描くようにクルクルと歩きまわっていた。


「ブレーメンの皆さんはアイテムを持って行っていたはず。加えてお金も大量に持っているはずだから、危険があれば惜しみなく使うはずなのに……」


 僕は雪が降る森の中でも移動が出来るように厚着をして、連絡が入ったらいつでも助けに行けるように準備を進めた。


 ブレーメンさん達が凍えていた時のために温かい飲み物や暖房着などを集めて冒険バックに入れて置き、連絡に備える。


 少なくとも四人が死んでいたら全くもって必要のない準備だが、死んでいる訳がない。僕はそう信じて連絡を待つ。


 だが……、夜になっても連絡は来ず、お湯も冷めてしまった。


――ブレーメンさん達はいったい何をしているんだ。何かを見つけたのだろうか。こんなに連絡がないと本気で心配してしまう。どうにかして見つけ出せないだろうか。出来ることはないだろうか。今の僕には、出来る仕事をこなしていくしかない。


「じゃあ、モモ、僕はブレーメンさん達を少し探してくるよ。子供達をお願いね」


 しびれを切らした僕はブレーメンさん達を探しに行くと決めた。冒険バックを背負い、玄関に向かう。


「ご主人様……。私にも行かせてください」


「駄目だよ。外は寒い。モモだって凍える寒さだ。そんな場所で夜遅くに探しに行くなんて危険すぎる」


「でも、ご主人様一人じゃ、やみくもに探すだけになってしまいます。においを辿れれば無駄な時間を省いて四人のもとに向うことができるはずです。そうすれば、まだ助けられるかもしれません」


「そうかもしれないけど……。モモまで危険にさらしてしまうのは親として容認できない」


 僕は考えたが首を横に振る。


「私はご主人様の子共じゃありません。あと、ご主人様は私の親じゃありません」


「え……。僕はモモに親だと思ってもらえてなかったの……。確かに年齢は近いけど、兄とか年の近い兄妹くらいの感覚でいたと思うんだけど……」


「私とご主人様の関係は主と奴隷です。でも……、私はご主人様を仲間だと思っています。ご主人様にとって私は足手まといかもしれないですけど、一緒に助けたいんです。だから、私にも手伝わせてください」


「モモ……。命の保証は出来ないよ。それでもいいというのなら、ついてきて」


 モモの眼は本気だった。数回見た覚えのある真っ赤な瞳の眼差しは、これ以上何を言っても、モモは考えを変えないと僕は知っている。


「ご主人様……。わかりました!」


 モモはメイド服を着替え、なるべく冒険着を纏う。炭や薪を一纏りに縛って冒険バックに取り付け、救助用具や防寒着がパンパンに入った状態で担ぐ。


 左腕にナイフが取り付けられており、いつでも抜き差しが可能になっていた。左手でカンデラを持ち、マフラーで首を外の寒さから守っている。


「ご主人様、準備が出来ました」


「よし。じゃあ行こうか。ナロ君、子供達をお願いね」


「了解です。任せてください」


「主……。また、寒い外に行くの……」


 エナは僕のもとに寄り添ってきた。


「そうだよ。僕がいかないと冒険者の四人を見つけて救助できない。他の冒険者さん達もこの雪の中じゃ出てこれないと思うし、時間がない。出来る限り早く探して見つけ出さないと冒険者幸が凍えて死んでしまう。エナは何も心配せずに待っていればいいよ」


「主、エナの温もりはいらないの……」


「ありがとうね、エナ。あの時はエナがいたから助かったよ。でも、今日は大丈夫。時間がたてばすぐに帰ってくるから」


「ちゃんと帰って来てね……」


 エナは涙ぐみながらも、唇をぐっと噛み締めてついていきたいとわがままを言わなかった。自分が足手まといだとしっかりと理解しているようだ。


「もちろん、すぐに帰ってくるよ。何があってもね」


 僕は子供達から温もりを貰い、体を温める。これ以上の温かさがあるのかと思うほどの温もりだった。


 全員でムギュっと抱き合い、幸せな気持ちを力に変える。


「よし、モモ、行こうか」


「はい。ご主人様」


 僕はモモと共に家の外に出て北西の方向へ走り出す。


 雪はチラチラと降っており、光を乱反射させた。そのせいでカンデラの明りは三メートル先ほどまでしか照らされない。でも、見えないよりはましだ。


「モモ、四人の中でにおいが一番強い人は多分、ロミアさんだよね?」


「はい。そうです。あの人の嫌な臭いはそう簡単に忘れませんし、消えません。特殊な体質だと思うんですけど、今回はあのにおいじゃないと嗅ぎ取れないと思います。今回は嫌な臭いを辿る方が先決かと」


「そうだよね。じゃあ、四人が最後辺りを調べると言っていたから二○キロメートル先に行ってみよう」


「分かりました」


 僕とモモは二○キロメートル走り、契約した範囲の最も外側にやってきた。


 もちろん、森はまだまだ続いており、雪だらけだ。


――はてさて……、この辺りにロミアさんはいるのだろうか。


 僕とモモは弧線を書くように走り、ロミアさんのにおいを辿る。少しするとモモが立ち止まった。においを嗅ぎつけたのだろうか。


 モモは耳を動かし、眼をつぶっていた。


「ご主人様、悲鳴が聞こえます。キセキ村の方からです」


「え……」


 モモがキセキ村という言葉を口にすると、白色の光が飛んでくる。その光は以前も貰った覚えがある『ことず手紙』だ。誰からの差し出しだろうか。


 僕の目の前で光が弾け、一枚の紙になる。

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