第324話 食べる幸せ

「モモ、ミルが食べられなくなった肉を食べてくれないかな」


「はい。お安い御用です。じゃあ、いただきますね」


 僕はモモに皿を渡した。モモは肉を一枚だけ残し、他全ての肉を食べつくした。


「ご主人様……。最後の一枚を食べさせてもらえませんか……。ミルに食べさせていたみたいに……私にもぜひ、してほしいんです」


 モモは皿を僕に渡してくる。僕は残り一枚の肉を箸で掴み、モモの口まで持っていく。


「あ~ん」


「あ、あ~ん……。ハム……。モグモグ……。んんぅ~。やっぱりそうです。ご主人様に食べさせてもらえると何倍も美味しく感じます」


 モモは頬に手を置き、尻尾を振っていた。


「そうなんだ。よかったよかった。ありがとうね、モモ。沢山食べてくれて」


 僕はモモの頭を撫でる。モモは尻尾を揺らし、微笑んでいた。まっさらな皿を持ってミルのもとに戻るとミルはむくれていた。


「ミル、頬をそんなに膨らませてどうしたの?」


「むぅ~。モモさんにだけなでなでされて……ズルい……」


「え、ミルもナデナデしてほしかったの?」


「ミルは主様からなら、どれだけでもナデナデされたい……。ミルは主様のナデナデが無いと生きていけないの……」


「ミル、さすがに生きていけないは言い過ぎだと思うよ……。ナデナデがなくても死にはしない。まぁ、愛情によって変わると思うけど」


「ミルは主様無じゃ生きていけないの……。ずっと離れたくない……。いつも一緒にいたい……うっぷ」


 どうやらミルは食べ過ぎていたらしく吐き気を催していたらしい。だが、すんでのところで止まり、ぐっと飲み込む。苦しかったのか、涙を流して辛そうな顔をしていた。


 僕はミルの頭を撫で吐くのを我慢したのを褒める。決していい行動ではないが何度も吐くよりは吐き癖が付かず、体が耐えようと我慢してくれるはずだ。


 ミルが苦しそうにしていたので僕は腕の中に抱え、背中をトントンと優しく叩きながら撫でる。


「うわぁ~ん、主様ぁ……。苦しかったよぉ……」


「よしよし。苦しかったね。でも、もう大丈夫だから。少し休めば体調は良くなるよ」


 やはりミルの体は大食いに向いていないのかもしれない。昔からよく苦しくなっていたのかもしれない。それなのに我慢していたのかも……。そう考えると、ミルが少々いたたまれない気がしてきた。


 食べるのは好きなのに体は大食いするのが苦手というのだ。


 まぁ、大食いが食事の全てではないがお腹いっぱい食べる幸せというのは子供達にとってかけがえのない気持ちなのだと知っている。だからこそ食べることが出来ないミルが可哀そうだ。


「うぅ……。主様ぁ……、ミル……、もうお腹いっぱい食べられないの……」


 ミルは幸せを感じられないかもしれないという恐怖を得ていた。


「大丈夫。食べられるよ。少しずつ噛んで胃の中に入れればいいんだよ」


「うぅ……。バクバク食べたい……」


「バクバク食べたら苦しくなるんでしょ。だったら、少しずつ食べないと毎回苦しくなっちゃうよ。苦しくなるのは嫌でしょ。ちょっとずつ食べて体を慣らしていかないといつまでたっても気持ち悪くなるよ」


「気持ち悪くなるのは嫌……。でも、でも……。食べないと大きくなれないってお姉ちゃんが……」


「マルがそう言ったの?」


「うん……。いっぱい食べて早く大きくなったら主様がたくさん撫でてくれるって……」


「はぁ……。僕はミルが大きくならなくても撫でてあげるよ。あと、たくさん食べたからってすぐには大きくならない。毎日必要な食事量を取っていれば時がたつにつれて大きくなるよ。気にしなくていいさ」


「そうなの……。じゃあ、苦しくなるまで食べなくてもいいってこと……?」


「そうだよ。だから、そんなに辛い顏をしなくてもいい。食べられる量を毎日とればいい。それで十分だから。わかった?」


「うん……。じゃあ……主様、ミルをいっぱい撫でてくれる……?」


「もちろんだよ」


 僕はミルの後頭部に右手を置き、背中に左手を添えて撫でる。


 ミルは辛そうな顔から少々和やかな表情になり、気持ち悪さが少々なくなったようで何よりだ。


 僕がミルを撫でていると他の子供他達も混ざってくる。


 その中にはコロネちゃんまで混ざっていた。


 皆に少しずつ撫でていくと子供達は喜んだ。


 モモやナロ君までもが撫でられたがっており、少々異常かと思ったが、皆撫でられるのが好きだというので仕方がない。


 僕は子供達を撫でたあと、食事を片付けてカロルさんにお礼を言い、家まで帰った。


 時刻は午後三時ほどで皆ヘトヘトだった。雪かきや除雪社業で体を酷使したから仕方ない。


 ただ、ブレーメンの人達は未だに帰って来ておらず、ここまで遅いと何かがあったとしか思えない。


 もしかすると魔法やアイテムが使えない状況に追い込まれている可能性がある。


 探さなければならないが雪が降りしきる広い森から特定の人物を四人見つけるとなると、時間が掛かる。


 子供達を連れて行くわけにはいかない。


 僕一人で探しに行かなければならない。

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