第322話 除雪作業

 お湯が熱すぎたと思った僕は水を足し、お湯を少しぬるめた。


 エナは全身がゆでだこのように赤くなり、少しひんやりとしているお風呂場の床にべったりとくっ付いている。


 エナは全身をブンブンと震わせ、水気を飛ばしたあと熱った顔で僕のもとにまたやってきた。


 エナはお風呂のお湯の温度を確かめ、パーッと明かるくなったあとお湯にジャボンと入り、ほんわかした表情になる。


 どうやらお湯の温度が下がったことで、エナに丁度良い湯加減になったようだ。


「はぁ~、暖かい……。主~、さっきのお湯熱すぎ~。エナ、溶けちゃうかと思った」


「はは……、ごめんごめん。僕は温度に鈍感だから、わからなかったんだ。許して」


 僕はエナの頭を撫で、許しを請う。


「チュッチュしてくれたら許してあげる~」


「はぁ……。じゃあ、頬にだからね」


「うん!」


 エナは僕のもとに寄って来て。


 眼を輝かせていた。唇が頬に触れるだけなのだから大して何も変わらない。


 エナが期待するような効果は起きないと、これで分かるはずだ。


 絵本のように、お姫様が眼を覚ますといった現象は起こりえない。現実と絵本をしっかりと理解してもらわないと。


 僕はエナの頬に軽くキスをする。柔らかい頬で赤子や犬にキスするような感覚で行った。すると、エナは自分の胸を押さえる。


「あ、主……。な、なんか……、さっきよりも……、胸が苦しいよ……」


「え、大丈夫、エナ。何かの病気かな」


「で、でも……。いやじゃない……。苦しいのにどこか嬉しい……。うぅ~、なにこれぇ~、わかんない~!」


 エナはあたふたしていた。あまりにも異質な心音だったのか、脈打っている最中、エナは楽しそうで少し辛そうだった。


「エナ、大丈夫。少ししたらもとに戻るよ。本当に辛いんだった病院に行こうね」


「う、うん……。分かった。えっと……主。エナも主にチュッチュしたい……」


「何で? エナはただ、お姫様の役をしていただけでしょ。僕は女の子じゃないし、されなくてもいいんだけど……」


「いいからいいから~。エナも主にチュッチュしたいの~」


 エナは僕の頬にブチュっとキスしてきた。タコかと思ったがこっぱずかしい気もする。まぁ、子供がすることだ。多めに見よう。


「えへへ〜、なんか楽しい〜」


 エナは満足したのか、満面の笑みだった。


「ありがとうね、エナ」


「ど、どういたしまして」


 僕はエナに感謝して頭を撫でる。するとエナは照れ隠しに尻尾を振り、背を向けた。


 僕は悪戯でエナの綺麗な背中をつつーッとなぞる。


「ひゃっ! はわわわっ、主、くすぐったい〜」


 エナは体をビクビクッと震わせて甘く恥ずかしい声を出し、怒って僕に噛みついてきた。


 肉が神千切られたかと思ったが、どうやら甘噛みで腕に歯形が出来るくらいだった。


 エナはニシシと笑い、悪戯し返してきた。


 まだ幼いながらに悪戯を覚えてしまったのか、先が思いやられる。


 僕とエナは体を洗い、お風呂場を出た。子供達がドタドタと走ってきてくっ付いてくる。皆、起きてしまったらしい。


 僕達は朝食兼昼食を得てお腹を満たす。


 体に余裕が少し生まれ、良く動くようになった。


 手先が悴んでいた部分もあったのでやっと本調子に戻ってきたようだ。


 僕はブレーメンさん達から連絡がいつ来てもいいように出発の準備を整えておく。


 森は広い。おまけに気温も低い。加えて昨日の二の舞になってしまう可能性がある。


 そう考えると無暗に出ていくことはやはりできない。


 でも、二日間経っても戻って来なければ捜索しに行こうと思う。


 この日、ブレーメンさん達からの連絡はなかった。


 何か起こったのかと僕はしだいに心配になっていく。


 無事でいてくれれば助けに行けるんだけど、倒れていたらどうしようもない。


 次の日になり、探しに行こうと思った。だが、またもや雪が降り始めており、去年以上の大雪によって家屋が潰れている被害も起きていた。


 明らかに異常気象と考えられる。


 僕は村の家を優先せざるを得ない。ブレーメンさん達を探すのは村の除雪を終えてからにしよう。


 僕はレイトを家から引っ張り出して除雪を手伝わせる。


いやいや〜! と子供のように泣き叫んでいたが借金の減額と言ったらレイトはやる気になり、風魔法や炎魔法を使い、雪を除雪していった。


 僕はポロトの剣を使って雪を切り裂き、雪の塊を地面に落とす。と言っても地面に積もっている雪も三メートルを越え、家屋が埋まっていた。


 雪を大きな木製のごみ箱に入れ、エナやマル、ミル、パーズ、ハオ、モモ、ナロ君達に運んでもらい、手伝ってもらう。


 冬の川はとても危険なので近づかないようにさせていたのだが、雪の量が多く、川に流すしか除雪する方法がなかった。


 子供達のおかげで雪がみるみるなくなっていき、村が雪に埋もれる心配はなくなった。


 だが、まだ一二月の中旬なのを考えると、雪の量はもっと増えていきそうだ……。


「このまま終わってほしいくらいしんどい。でも、いい鍛錬になるから子供達には運動になるな」


 僕達が雪を退かしたお礼に村の皆から、野菜やお酒、イモ類などをたくさんもらった。


 もう、食べきれないと思うくらい貰ったが、外の雪の中に埋めておけば冷蔵庫を使わずとも保存ができると思い、きっと腐りはしないだろう。

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