第320話 オアシス
――ブレーメンさん達はまだ帰ってきていないのか。何かあったのかな。でも、何かあったら魔道具で教えてくれると思うし、無事なはずだ。皆さんは雪が降る中でもゴブリン探しを行えていた。例え吹雪にあったとしても冷静な判断で窮地を脱しているはず……。
僕は雪の降った時の対処法をブレーメンさん達におしえていた。だからきっと無事なはずだ。
僕は自分の体力が回復してからブレーメンさん達を探しに行こうと判断する。
「スゥ……。スゥ……。スゥ……」
僕の腕の中で眠るエナは寝息を立て、肌の色も元に戻ってきていた。もう心配いらないようだ。
「主様……、ムニャムニャ……」
「主様……、チュッチュ……」
「師匠……」
「コルト……」
エナ以外の子供達は皆、僕の周りに集まって眠っていた。どうやら昨日眠れなかったのはモモだけではなかったらしい。
ナロ君が言うには皆、僕達のことが気になって眠れなかったそうだ。加えて昨日の夜にモモが屋敷を飛び出していこうとしたらしく、皆で止めたんだとか。
ナロ君の判断によってモモが低体温症にならずに済んだ。僕達が帰って来てからモモは一向に離れてくれず、トイレやらお風呂やら全部ついてくる。もう、心配いらないのだがモモは心配で心配で仕方がないようだ。
どれもこれも睡眠不足が原因だと思うので、モモや子供達にはいっぱい眠ってもらった。寝息を立てだした子供から、ベッドに移動してもらい、布団を懸ける。
マル、ハオ、パーズはベッドに移動してくれたがモモ、エナ、ミルは僕から離れてくれなかった。エナは僕の温もりが、ミルとモモは安心が欲しいらしい。とても愛らしいがさすがにくっ付き過ぎのような気がする。まぁ、不安にさせてしまった僕が悪いのだけど……。
「エナ、ミル、モモ。ベッドで寝た方が、疲れが取れると思うよ。僕にくっ付いても体力は回復しないからさ」
「嫌です……。私はここにいます……。私はご主人様にくっ付いていたいです……」
モモは僕の腕をムギュっと掴み、離そうとしてくれない。
「ミルも……。主様と一緒にいたいの……。主様が帰ってこなかったとき……すっごく、すっごく悲しかったの……」
ミルは僕の脚に抱き着き、離そうとしなかった。
「主と一緒にいるの、エナ、ずっと主と一緒にいるの……」
眠っていたはずのエナも、ベッドに移動させようとすると眼を覚まして抱き着いてきてしまう。昨日は寝不足だというのにそこまでして僕と離れたくないなんてとても怖い思いをしたんだろう。
僕だって死ぬ恐怖を味わった気がする。加えて大切な者が瀕死になり、助けられなかったかもしれないという恐怖が今もある。
僕から離れたくないと言っていた三人も自然と深い眠りに入り、全く起きなくなった。僕は三人をベッドに移動させ、布団をかぶせる。僕のにおいが付いた枕で少しでも不安を解消してもらおう。
僕は皆から開放され、やっとお風呂に入りに行く。先ほどはモモに付いてこられて入れなかったのだ。体の疲れを取るにはお風呂がやっぱり欠かせない。
「今日は少し長風呂でもしようかな……。でも、家の中はやっぱり温かいなぁ。源泉が床に流れているからすごく暖かい。凍結もしないし、家の中を流れている間にお湯の温度が冷めてお風呂に溜まる時には最適温度になっているとか、いったいどんな人が作ったんだろう」
僕は今でも家のありがたさに感謝していた。
「王都の家にもこんな機能が付いているのかな。あまりにも便利すぎて怖いんだけど……。まぁ、昔からあったんだとしたら貴族ってすごいな……」
僕は脱衣所で服を脱ぎ、お風呂場に入った。
湯気がお風呂場に大量に発生しており、前が見えにくい。窓を開けて換気を行い、外の冷たい空気をお風呂場に入れる。すると、湯気が全てなくなり、お湯から出ているだけの状態になった。
僕は全裸だったので風がすごく冷たく感じた。足下からかけ湯をしてなるべく心臓に負担が掛からないようにする。
「うわぁ、あったかぁ。こりゃあ、オアシスだよ~」
僕は足元からお湯を掻け終わり、脚、お腹、肩という具合にかけ湯をしていく。すると、全身がすぐに温まり、心臓の鼓動も穏やかになっている。このまま、お湯に足先を入れ肩までお湯に浸かる。昨晩の吹雪が嘘かのような温かさで、心が解れていく。
「体力が回復したらブレーメンの皆さんを助けにいく。そのあとはもう一度南東の森を調べに行くか。エナを連れて行ったのは僕の失態だ。でも、次からは連れて行かないでおこう。そう言っても、エナは言うことを聞いてくれなそうだよな。だって……」
僕は脱衣所の方を向く。先ほどまですやすやと寝ていたはずなのに、誰かがドタドタと廊下を走り、迫ってくるのだ。足音は今のところ一つ。身長は一メートルない。つまり……。
「あるじぃい~~! うわぁぁぁぁぁぁぁ~~ん!」
エナは脱衣所から下着姿で現われ、泣きながら僕の入っているお風呂に飛び込もうとしてくる。
あまりに早い体力の回復の驚きながら、急激に体温を上昇させるわけにはいかない為、僕は立ち上がって、エナを受け止めた。
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