第318話 猛吹雪

 次の日……。


「じゃあ、コルトさん。私達は今日で四分の一を調べ終われそうです。いつもより範囲が多いので少し時間が掛かるかもしれないですけど、今日中に帰って来ようと思います」


「はい。僕は南東の方を調べに行きます。くれぐれも気を付けてくださいね。最後まで何があるかわかりませんから」


「はい。分かっています。何かあれば、アイテムで知らせると思うので他の冒険者かコルトさんが助けに来てくださいね」


 ロミアさんは僕の手を取ってお願いしてきた。


「はい。必ず助けに行きますよ」


「あぁ~ん。ロミアだけズルい~。私もコルト君と手を握るの」


 フォーリアさんは僕の手を握り、スリスリと頬をこすりつけてくる。あまりにも猫っぽいのでマルやミルも大きくなったらこんな感じかな、などとかってに想像し、微笑ましくなった。


 僕はもう一方の手でフォーリアさんの頭を撫で、微笑む。


「きゅぅぅ……ん。もう、むりぃ~!」


 フォーリアさんは僕の手を放し、自分一人だけで颯爽と走っていった。


「ちょ! フォーリア! 一人で行ったら危ないでしょ!」


 ララさんはフォーリアさんに大きな声を呼びかけるも、フォーリアさんは止まらずに走っていた。


「はぁ……。困った子ですね。では、コルトさん。私達は仕事に行ってきますね」


 ウルさんは僕にペコリと頭を下げた。


 ブレーメンの方たちはフォーリアさんをおって北西の方へと走っていく。


「はは……、元気な人だなぁ」


「主~! エナ達も早く行こ~!」


 屋敷の中から、風呂敷を持ったエナがブレーメンさん達に負けず劣らずの元気の良さを見せつけながら走ってくる。


「はいはい。一緒に行こうか」


 エナはいつも通りの薄着で動きやすさ重視。それにも拘わらず、風邪をひかないのは元から獣人の免疫力が高いからなのかもしれない。


 僕とエナは南東の方向に走り、ゴブリンの巣がないか調べた。こっち側方面を調べる必要性がないような気もするが、万が一の為、しっかりと調べておかなければ気が済まない。


 森の中も雪が積もっているため、調べるのは一苦労だが、どうにもこうにも生き物が多い。でも、その中にゴブリンの姿はなかった。


 僕達は空を見上げ、黒い雲が空を覆っているのを見て、早々に切り上げることを決める。


「主、もう帰るの? まだ、昼食を得たばかりだよ。いつもなら、もっと先まで行くのに、どうしていかないの?」


 エナは僕のもとに近づきながら聞いてくる。


「空の天候が怪しいんだ。もし、大雪にでもなったら、家まで帰るのが一苦労になる。もしかしたら戻れないかもしれない。そうなる前に家に帰らないと」


「エナ、もっと主と魔物を倒したかった~」


 エナは木剣を持っている。木剣は黒い血にまみれ、液体が滴り、白い雪を真っ黒に染めあげていた。


 エナの剣の腕前は小型の魔物を容易く倒せるまで成長していた。やはり天才なのか、獲物を狩る時の俊敏さは目を見張る素質がある。


「今日はもう、おしまいにしよう。魔物の素材を解体して早く帰るよ」


「はぁ~い」


 エナは腰につけている小型ナイフを取り出し、魔物をスパスパっと解体する。素材と魔石を取りだし、麻袋に詰め込む。そうしていたら空から大粒の雪がチラチラと降り、僕たちの髪に乗る。


「降ってきた……。急がないと吹雪くぞ……」


 僕の予想通り、雪が降り始めてから数分で猛吹雪になった。


「うぅぅ~。主~、寒いよぉ~」


「大丈夫。近くに洞穴があるのは知っているから。そこに一度非難しよう」


 エナは僕の胸に抱き着き、一緒にローブで包まれていた。


 視界は真っ白に染まっており、手が悴んでいる。きっと木々がなければ方向感覚もくるっていただろう。


 後方を見ると、進んできた足跡が既に埋まり、歩いてきた方向も分からなくなる。


 家に帰るのはおろか、洞窟に非難するのもままならない。


 僕の優れた視力がなければ、木々も見えなくなっていただろう。


 僕は一歩一歩進み、洞窟を目指した。エナの体温がなければ僕の体も凍死していたかもしれない。


「はぁ、はぁ、はぁ……。危なかった……」


「うぅ……。さ、さむぃ……」


 猛吹雪の中、僕とエナは洞窟に到着した。


 手足が悴み、唇が青くなっていると優に分かる。


 薪を取りに外に行くことは出来ず、燃やせる物は何もない。


 どうしようもないくらい寒いので、エナと僕は常に抱き合っていた。そうしなければ寒すぎて死にそうだからだ。


 僕の方は丈夫な体なのでそう簡単に死にはしないが、エナはまだ子供だ。こんな極寒の地では普通の生き物は生きていられない。


「今夜は帰れそうにないな……。皆が心配すると思うけどこの猛吹雪の中を帰るのは流石に厳しい。ブレーメンの皆さんは大丈夫だろうか……」


 僕は自分の心配ではなく他の人の心配をしてしまう。自分は二の次三の次と言った具合だ。


 エナは僕の腕の中で眠りかけていた。極寒の地で意識を失ったらもう、手遅れになる。


「エナ……、寝たら駄目だ。起きて」


 僕はエナの耳元で囁く。


 すると、エナの体がビクっと跳ね。意識が戻ってきた。


「あ、主……。何したの……」


「エナに眠ってほしくなかったから囁いたんだ。吹雪がやむまで眠ったら駄目だ。そのまま死んじゃうよ。エナも眠らないように体を少しでも温めないといけない。意識を保っていてほしい。僕の腕の中で死ぬなんて許さないからね」


「エナ……、死にたくない……。主と生きたいの……」


「うん、その意気だよ。僕もエナと生きたい。だから、吹雪の止む時まで眠らないように頑張らないと」


 僕は体を動かし、熱を発生させる。エナはフワフワの尻尾を僕の体の間に挟み、少しでも温かくする。

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