第283話 男同士の入浴

「何だよ。コルトも誰かに欲情したいのかよ?」


「そう言う訳じゃないけど、僕はまだ子供なんだよなーって思って。この前ナロ君に教えてもらったんだけど、大人になるとあれが大きくなって何か出るらしい」


「おい、知らなかったのか……。と言うか、そこまで徹底されてるのかよ……。なんか勇者って不憫だな」


「ナロ君に普通じゃないっていわれた。僕くらいの歳になったら結婚して子供が欲しくなるらしいんだけど……、全く持ってそんな感情が沸かないんだ」


「まぁ、普通じゃないわな。コルトくらいカッコよければ女なんて釣り放題なのにな。ほんともったいない」


「何でそんなこと言うかな。僕は女性を誑かすような真似はしないよ。まぁ、恋すらした覚えがないから分からないんだけど……」


「コルトが普通の人間に戻るにはどうしたらいいんだろうな?」


「魔王が倒されたら戻るらしいよ」


「まじかよ……。治す方法がめっちゃ大変だな。でも勇者なら女と遊び放題じゃねえか」


 レイトは眼を輝かせて僕の方に寄ってくる。


「それが出来ないように欲求を消されてるんだ。ただ魔王を倒すためだけに生きないと行けない。でも、僕はこの生活に慣れてしまったから、魔王を倒す必要性がないというか……」


「おいおい、勇者が魔王を倒さなかったら世界が魔物の手に落ちちまうじゃねえかよ。コルトが死んだとき、今までこの世界を守ってきた勇者たちに顔向けできるのか?」


「そ、それは……」


「でもまぁ、コルトが勇者のスキルを売って今の勇者はドラグニティとか言うSランク冒険者なんだろ。じきに治る感じはしないのか?」


「どうやら、勇者ってスキルじゃないらしいんだ」


「は? 勇者がスキルじゃない……。何でなんだよ。俺と一緒に聖典式でスキルを貰ったじゃないか」


 レイトは首を傾げ、頭に? を浮かべている。


「そうなんだけど、勇者はスキルじゃなくてネームドって言うらしい」


「ネームド……。いったい誰からそんな情報を聞いたんだ?」


「なんか、頭の中から声が聞こえた時があって、その時の声が言っていたんだ」


「お前……頭は大丈夫か? いったん病院に行った方がいいんじゃ……」


 レイトは僕の頭を心配してくれた。馬鹿にされているのかもしれないけど……。


「僕もそう思ったんだけど声の言うことが本当臭いんだ。子供達のなだめ方も当たっていたし、僕の力が残っている状態なのも説明が付いた。だから多分本当なんだよ」


「それじゃあ……。今、勇者のスキルを持っているドラグニティはどうなるんだ?」


「勇者と言う名札を付けているだけらしい。勇者の力は生まれた時から体に備わっている力らしくて職業スキルと呼ばれているスキルは全部ネームドと言うんだって」


「職業スキル……。『バーサーカー』とか『魔導士』『聖騎士』『剣士』的なやつか?」


「そうだよ。皆、不遇スキルと言われているけど扱えたら強力な力を得られる。スキルの力じゃなくて自分自身の力っていうのが正しい解釈なんだ」


「じゃあ、勇者のスキルを貰ったものが勇者になるんではなく、生まれた時から勇者だったわけか」


「そうみたいだね。ほんと困った話だよ……」


 僕とレイトはお風呂場に向った。


 子供達は疲れからか先に眠ってしまっているため僕とレイトだけでお風呂に入った。


「ふぅ~。めっちゃ気持ちィじゃねえか~。家にこんな良い風呂があったら、最高だな」


 レイトが浴槽に入るとお湯がザバ~っと一気に流れ出る。


「そうでしょ。本当に最高なんだよね。疲れが一気に吹き飛ぶ感じがするんだ」


 レイトはお風呂の中でお湯にぷかぷかと浮いている。出た腹が水面に浮かび、一つの島のようになっていた。プニプニと突くとすぐに変形し、凹む。


 僕は、昔はこんなに太ってなかったのになと思いながら、触り心地は良いので太鼓をたたくようにポンポンと弄っていた。


「おい、俺の腹で遊ぶなよ。くすぐったいだろ」


「いや、立派になったぁ~と思ってさ。ちょっと前まで痩せていたのに、お酒を飲み始めてから一気に太っちゃってさ~、もったいない。せっかく腹筋も割れていたのに。じゃあ、僕は体を洗うから」


 僕は立ち上がる。


「全身バキバキのお前に言われたくねえよ。服の上からじゃ全然分からないのに、なぜ脱いだらそんな筋肉の神みたく神秘的なまでの肉体を持ってるんだよ。ほんと憎たらしい。加えてそっちの方も俺よりデカいとか俺、死にたくなってきた……」


 レイトは僕の下半身を見て呟く。

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