一〇年ほど前の出来事

第281話 街から村に帰還

「はぁ、また来てしまった。さっきとは違う人の受付に行こう」


 僕は先ほどと反対方向にいる受付さんのもとに向かい、依頼書の提出を行った。


 僕の出した条件に合う条件者さん達が見つかればいいのだが……。


 今回、僕が出した依頼はこんな感じだ。


 場所:ルークス王国の王都から馬車で移動し七日間以上かかる田舎のブレーブ村。

 依頼内容:ゴブリンの巣が作られている可能性がある為、ブレーブ村周辺二○キロメートル圏内の捜索。

 期間:半径二○キロメートル圏内を捜索し終えるまで。

 報酬:一ヶ月単位、大金貨1枚。前金として中金貨五枚。

 依頼主:トニー・バレンシュタイン。(レイトの父)


 下記の条件を満たす者のみを志望する。

 一 村に一ヶ月以上滞在できる冒険者パーティーであること。

 二 三名から四名ほどのパーティーメンバーがいること。

 三 冒険者ランクがFからEまでの新米冒険者であること。

 四 やる気のある者であること。さぼっていると分かったら解雇します。

 五 死ぬ覚悟のある者。


 と言った具合だ。ゴブリンの巣の調査が長期間になるか、すぐに見つかるかは分からないが、やる気のある冒険者に来てもらいたい。そうしないといつまで立っても終わらない気がする。


 レイトのような性格のものが集まったら仕事なんて進むわけがない。新米冒険者達に覚悟があるのかどうか試すのはいささか不安だが冒険者になったからには死ぬ可能性も観見していないとお話しにならない。


 受付さんに来るかどうか意見を聞いてみると五分五分だそうだ。五割の人に期待したいが、失望するのは嫌なのでなるべく期待値は下げておく。やる気さえあればいいか。


 僕はギルドから出て駐車場にある馬車に向った。


「なぁ~、いいでしょ~、ちょっとだけだからさぁ~」


「や、止めてください。それ以上近づいたらご主人様の友人だとしても殴り飛ばしますよ」


「え~、怖い~。あ……」


 レイトは僕の方を見た。


 何を思ったのか気を失っていた。僕が怒ろうと思っていたのに気を失われたら怒っても意味がない。目が覚めた時、つるし上げてやろうか……。


 僕はレイトを縄で縛り、馬車の中に入れた。はたから見たら人攫いにしか見えないがレイトを見ている者は誰もいなかった。


「ご主人様ぁ、怖かったですぅ……」


 僕が馬車の前座席に座るとモモがくっ付いてきた。そりゃあ、レイトに触られそうになったんだ、怖かったに決まっている。


「よしよし。怖かったね。もう大丈夫だよ」


 モモは積極的な男性に恐怖心を抱いているらしく、夜眠れない原因とも結びついているんだとか。そう考えると、僕は相当なつかれているみたいだ。


 僕がモモの恐怖心を取り除いてあげられればいいのだが、なかなか難しいのが現状である。


 レイトに貸していた牧場の馬が見当たらなかったので、僕は指笛で呼んだ。


 すると、どこからともなく一頭の馬が僕のもとにまで走ってくる。


「よしよし、いいこだね」


「ブルル……」


「ど、どこから来たんですか……」


「分からない。でも、指笛を鳴らせば僕のもとにまで来るようしつけてあるんだ」


「な、何ですかその忠誠心! 私も見習わなくてもなりませんね! ご主人様、もし私が必要になったら、モモと大声で叫んでもらえれば、どこからでも駆けつけます!」


「い、いや……、さすがに恥ずかしいかな」


 モモの体調が元に戻ったころ、二頭の馬を走らせ、街を出た。


 五時間ほど走り、ようやくブレーブ村が見えてきた。もう、夜の八時くらいだ。


 皆も疲れて眠ってしまっている。モモも少し疲れて来たのかうとうとし始めていた。


「モモ、ブレーブ村まで近いけど、僕が交代するよ。少し休まないと危ない。馬も疲れてきているし、操縦を誤るだけで事故になりかねないからね」


「わ、分かりました。すみません……」


「謝らなくてもいいよ。長い間、集中力が持つわけないんだ。ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます。ご主人様」


 モモは僕に手綱を渡した。そのまま僕の肩に頭を乗せて休んでいた。村の明りを頼りに、馬を走らせ、どうにかこうにか今日中に到着して野宿せずに済んだ。


 余裕をもって街で止まってもよかったのだが、帰れそうだったので馬車を走らせていた。


「ふぅ、何とか帰ってこれたぞ。グルグル巻きのレイトを家に送りとどけないと。あ、でも、レイトの家に今は誰もいないのか。大怪我をしていたら治るのも時間が掛かるからもう少し後かな」


 僕は仕方なくレイトと一緒に屋敷に戻った。


 馬たちには牧草を食べさせ水を飲ませ、子供達を屋敷に移動させる。


 遅くなってしまったが夕食の準備に取り掛かったナロ君はあっという間に夕食を作る。と言ってもおにぎりなので本当に時間のかからない料理だったが手間暇はかかるので感謝しなければならない。


 僕達はさっと食事を済ませ、お風呂に入った。レイト以外……。

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