第280話 名乗れない店名

「おう、遅かったな。そのまま逃げたかと思ったが本当に戻ってきたのか」


 レイトを囲む男達は僕の方を見てきた。


「僕は友達を見捨てるほど腐ってはいません。あ、そうだ。一つ聞いてもいいですか?」


「何だ?」


「皆さんの勤めているお店の名前を教えてください。そのお店が合法に営業されているお店なのか知りたいんです」


「は? 何でそんなん教えなきゃならねえんだよ」


「だって、もし合法のお店じゃなかったら犯罪じゃないですか。犯罪者にお金を払う必要はありませんよ。合法のお店なら教えてくれてもいいじゃないですか?」


「ちっ! 大人を舐めるなよ。ガキが調子に乗ってると痛い目を見るんだ」


「僕も一応成人しているんですけど……。子供っぽく見えているのか。なんか、残念です」


 周りにいる男性は腰に掛けてある剣を抜き出した。どうやらお店の名前を言えないらしい。


「剣を抜くなら、合法ではないと言っているようなものですよ。それでもいいんですか?」


「たまにいるんだよ、お前みたいな正義の味方を気取った馬鹿が。法律を盾にすれば自分の身が安全だと思ってやがる。法律なんてあてにならねえんだよ。強い方が相手を支配できるんだ」


 男達は周りに冒険者や街の人がいるのに剣を抜いた。


 それなのに街の人たちは僕達に関わろうとしない。


 まぁ、この人達が合法だと思っているのかもしれない。力でねじ伏せるのがこの街の粛清だと思っているのかも。いや、違うな。この人達の服装、よく見たら兵士と騎士の服装にそっくりだ。そうか、兵士たちが取り締まっているように見えているんだな。だから、他の人が寄ってこないんだ。


「こいつらを縛って家畜のえさにしてやれ。ガキだろうと容赦するな」


「おらあっ!」×ガラの悪い男達


 剣を抜いた男達は僕達に暴行を加えるため殴り掛かってきた。


「や、止めろ! お前ら、死ぬぞ!」


 レイトは叫び、僕は『ポロトの剣』の柄を握り、引き抜く。


「おらあっ!」


 一人が剣を振りかざしてきたので僕は容赦なく切った。切り掛かってきた男の剣をね。


『バキンッツ!』


「な……。剣身が切れた?」


 男は困惑し、周りを見渡す。


『パキンッツ!』×五


 折れた剣身が五本レンガ道に落ちる。


「さぁ、あとは殴り合おうか。それとも大金貨四枚の方が命より重い?」


「くっ! 覚えてろよ!」


 何が起こったか分からないといった様子の人達が大半だったが潔く逃げていった。


 わざわざ金貨を取りに行かなくてもよかったな。まぁ良いか。ゴブリンの調査に必要なお金なんだ。どうせ下すつもりだったし。


「か、かっけぇ……。こりゃ惚れるわ……」


「止めてくれよ……。レイトにだけは惚れられたくない」


「やっぱ、お前俺にだけ酷くね……」


 僕は地面にへたっているレイトの手を取って立ち上がらせた。


「ふぅ。助かったぜコルト。まさか会えるとは思っていなかった。というか、父さんは無事なんだよな!」


「うん。無事だよ。だから安心して。あと、よかったね。これでレイトの借金が大金貨一枚だけになった」


「それでも大金なんだが……、まぁ、大金貨五枚よりはましか。それじゃあ俺はギルドで申し込みをしてくるよ」


「はぁ、なるべく早くギルドに行って申し込みをしておけばこんな目に合わずに済んだのに、ほんと何で寄り道していくかな」


「いやぁ~。本当に可愛い人だったからつい。魔が差しちまった。情けない話だけどな……」


「ほんとだよ。あと、そんな恰好じゃあギルドに入れないでしょ。僕が手続きをしてくるよ。ウルフィリアギルドの駐車場に僕の家族と馬車が止まっているからそこで待っていて」


「分かった。悪いな、迷惑をかけて。この借りはいつか返す」


「あと、大金貨一枚の借金もね」


「わ、分かってるって。必ず返すから。うん、多分、う~ん……、まぁ、ちょっとは……」


 僕は悟ったレイトがお金を返しきるのに何年もかかると。


「依頼書はあるの?」


「もちろん。この中に、ギルドカードもある」


 レイトはパンツの中から二枚の紙とギルドカードを取り出した。あまりにも触りたくない。だが、触れないとブレーブ村から依頼をお願いできない。僕はいやいや受け取り、ウルフィリアギルドの支部に再度入った。

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