第277話 子供たちの買ったもの
「主~、次はあれで遊びたい」
「はいはい。分かった分かった」
僕がエナを連れまわすつもりが、いつの間にかエナが僕を連れまわしている状態になった。
「エナは何か欲しいものがないの? 皆はお店の中を探し回ってるけど」
「別にない。主と一緒にいれるだけで嬉しいし楽しい、美味しい物が食べられて遊べるし、エナは主がいればほんとに何も要らないの」
特に使い道もないのに金貨一枚を握りしめ、エナは自信満々に答えた。
――エナは何も要らないって言っているけど、色々じーっと眺めているんだよな。何を見ているんだろうか。
エナは服や本、武器や防具、玩具など色々眺めてはプイっと顔を背けて別方を向く。本当は欲しかったりするのだろうか。欲しいけど我慢して買わないようにしているのかもしれない。
「エナ、もしかして我慢しているの?」
「え? 別に我慢はしてない。これを買ったらどうやって遊ぼうかなーって考えているだけ」
「じゃあ、今まで見て素通りした品は全部欲しかったけど使わないと思った物なの?」
「んー。あったら面白そうだけど別にいらないかなーって思った。金貨は一枚しかない。いっぱい買えないから、本当に欲しいと思った物だけにする」
「なるほど、今のところはエナの本当に欲しい品に出会っていないのか」
「そう。別に買わなくてもいいし、見つけたら買う。今は主と一緒に遊ぶのを楽しんでるの」
エナは僕の手を掴んでブンブン振りながら歩く。
エナと遊んでいると時間はあっという間に過ぎていた。なるべく早く見て回ったつもりだったが、お店に備え付けられている大きな時計は既に解散から五五分経過しており、待ち合わせ時間まであと五分しか残っていなかった。
僕たちがいたのは一階の食品が売っている空間だった。
試食品をエナが食べ過ぎてしまい、お店の人に誤って回っていたところだ。
『デシッ』
「痛~ぃ」
僕はエナを捕まえ、おでこにデコピンをした。エナはおでこに手を当てて涙ぐんでいる。
「エナ、試食を食べ荒らしてはいけません。他のお客さんに迷惑が掛かるでしょ。食べたいなら食べたいと言ってくれれば買ってあげるから。はい、ソーセージ」
僕はエナが試食で食い尽くしたソーセージを買い、エナにあげた。
「うわ~い、ありがとう、主~。スンスン、ふぁ~いい匂い」
エナは大きなソーセージに齧り付く。
ソーセージが思ったよりも大きかったのかエナは困惑していた。
噛む力を強くし、皮が音をパキッと鳴らして割れた。割れた部分から、肉汁が溢れ出し、とても美味しそうだ。
エナは幸せそうな顔をしてソーセージをあっという間に完食してしまった。
「ふぅ~。美味しかったぁ」
「ほんと、よくたべるねぇ。まだまだ食べられそうな勢いだけど、もう、皆の待ち合わせ場所に向かわないといけないから急ごうか」
僕はエナの手を引いて早歩きをする。エナはほぼ走っているような状態でついてきていた。
僕とエナが待ち合わせ場所の休憩所に到着すると、既にモモとナロ君が待っていた。子供達もおとなしく椅子に座っている。
「皆、お待たせ。ギリギリになっちゃったよ。待たせちゃったかな?」
「いえ、私達も今到着した所なので気にしないでください」
モモは笑顔を僕に見せた。
「僕達も今、到着しました」
ナロ君はパーズとハオをぎゅっと抱き寄せて座っている。きっと、二人がどこかに行ってしまわないようにしているのだろう。
「皆は何か買ったのかな?」
僕は子供達が何を買ったのか凄く気になり、聞いてみた。
「マルは銀貨一枚で髪飾りを買いました。あと、可愛いおパンツと内シャツを二枚ずつ買って銀貨四枚。あと銀貨五枚は残しておきます」
「へぇ、いい買い物をしたんだね。髪留め、凄く可愛いよ」
僕はマルの耳元についている四つ葉の髪留めを見て褒める。
「えへへ。ありがとうございます。お家に帰ったら可愛いおパンツも見せてあげますね」
「別にわざわざ見せなくてもいいから……」
「そうですか……、せっかく可愛いおパンツ買ったのに……」
僕はしょんぼりしてしまったマルの頭を撫でて宥める。
「ミルは何を買ったの?」
「えっと、鉛筆とノート、消しゴムの合わさったやつが銀貨一枚……。絵具と筆、スケッチブックで銀貨三枚……。絵本一冊銀貨二枚……。全部で銀貨六枚使って、四枚残した……」
「へぇ、ミルは自分のやってみたいことの為にお金を使ったんだね」
「うん……」
ミルは自分の買った物を大切そうに抱きかかえて持っていた。
「パーズは何を買ったの?」
「……本一冊、金貨一枚だけ……」
パーズは先ほど見ていた剣術の本を買っていた。なかなかに分厚いため読むのは大変だと思うが、きっとパーズなら読みきれるだろう。
僕は独学なので正しい剣術を教えてあげられないから、パーズ自身で学び、いい部分は吸収、いらない部分は捨てていく判断が出来るようになるかもしれない。
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