第275話 パーズ用の重たい剣

「次はパーズの鍛錬用の剣を探そうか。重い剣がいいんだっけ?」


「……そう……」


 パーズは首を縦に振った。


「それなら、剣がいっぱい売ってある商品棚を見に行こう」


 僕はマルとミル、エナをモモにいったん預け、パーズと共に剣が並べられている箇所を見て回る。


 なるべく刃の付いていない練習用の剣を探していたのだが、なかなか売っていなかった。


 武器屋に売っていた剣は軽量の品が多い。そりゃそうだ。軽量の方が剣を直観的に振れて小回りもきく。加えて、持ち運びも比較的楽だ。


 剣を重くするなら攻撃範囲の広い大剣か長剣を持つのが主流で、剣自体をわざわざ重くすると言った商品は売っていなかったのだ。


「なかなかないね……。斧や大剣、ハンマーなら結構重たい練習用の武器があるけど、パーズは剣がいいんだよね?」


「……うん……」


 パーズは小さく頷く。ただ、熊族のパーズが重く感じる剣となると相当重くないと中途半端になってしまいそうだった。


 探しあぐねていた僕達は店員さんに聞いてみる。


「すみません。練習用の重たい剣ってありますか? 出来れば相当重い品がいいんですけど」


「練習用の重たい剣ですか? んっと……。ちょっと調べてみますね」


「よろしくお願いします」


 店員さんはスキルボードでお店に並べられている商品を見ていた。


「んー。練習用で重量のある剣はこのお店に入荷されていませんね。このお店にある練習用の剣で一番重いのはこれですけど……」


 店員さんは両手で柄を握り、床を引きずるように持って来ていた。店員さんにとっては十分重い剣らしい。


「ありがとうございます」


 僕は店員さんから剣を受け取り、もってみる。確かに重めだが鉄製の剣と大差ない。一応パーズに持たせてみたがお気に召さなかったようだ。


「すみません。他を当たってみます」


「そうですか。大変申し訳ございません」


 店員さんは深く頭を下げてきた。


「いえいえ。気にしないでください。もう少し別の場所を探してみます」


 僕は店員さんにモモの欲しがった商品を渡し、会計を済ませる。


 ナイフの値段が一本金貨一〇枚、手入れ道具の品が全て合わせて金貨五枚。合わせて金貨一五枚になった。なかなか高額である。


 購入した商品を僕はモモに手渡した。


「はい、モモ。大切に使ってね」


「ありがとうございます! 一生大切にします!」


 モモは大層喜んでくれた。尻尾と耳が喜びの大きさを僕に伝えてくれる。


 これでほぼ皆に送り物をあげた。皆、微笑ましい表情を浮かべており、幸せそうだ。


 ただ、パーズだけはしょんぼりした表情をしており、悲しそうにしていた。


 僕はパーズの目線になるようしゃがみ、頭を撫でながら伝える。


「パーズの送り物はもっとよく探してみようか。他のお店にも剣は売っているから、もしかしたら掘り出し物があるかもしれない。諦めずに見て回ろう」


「……うん……」


 パーズは頷き、少しだけ笑った。万が一見つからなかったら、他の方法を模索してみよう。


 僕達は武器の売っているお店を出て小さなお店を一店一店見て回った。だが、なかなかパーズのお目にかかる剣は見つからなかった。


「ここが最後みたいだね。ここになかったら他の方法を考えた方がよさそうだ」


 僕達は最後のお店に入り、武器を見て回った。


「ここ……、なんか他の武器やと雰囲気が違うな。なぜかどれもこれも重苦しい武器ばかりだ……」


 僕達が入ったお店の中にいたのは身長が低めのドワーフさん達だった。


 武器を吟味しているところを見ると、どうやら冒険者さん達みたいだ。


 お店自体は小さく、武器数もそこまで多くない。だが、一つ一つの品質が高く、名工の品のように思える。


 武器にうるさいドワーフ族に売るのだからそりゃあ、質が高くなるのもうかがえると思った。


 武器の装飾も質素で扱いが楽そう。すべての武器がどこか『ポロトの剣』に似ており、ドワーフ族が作った武器なのだろうと勝手に予想していた。


 僕はパーズのお目にかなう品があってほしいと思いながら、剣の売っている棚に移動し、商品を見る。


 思っていたよりも品数が少ない。


 剣を売っている棚を見ただけで剣がドワーフ族に人気がないと分かる。


 ドワーフ族は背が小さいぶん、獣人を上回るほどの怪力の持ち主だ。

 

 脚は遅いが力は持っている。きっとそう言った種族は剣よりも斧やハンマーなどの力技で事を済ませられる武器が好まれる傾向にあるのだろう。


 お店に売っていた剣は二本しかなかった。


 一本は刃が付いており、もう一本は練習用の刃が付いていない剣だった。


「おっ!」


 僕は練習用の剣を見つけて思わず声が出てしまう。


 静かな室内で声が反響し、とても恥ずかしい思いをした。


 僕は練習用の剣を手に取る。ずっしりとした重さがあり、僕でも重たく感じた。


 いったいなんの素材を使っているのかと疑問に思う。


 その剣は片手で持ち上げるのがとても厳しいほどの重さで、これならパーズでも重く感じるはずだ。


「パーズ、これはどうかな?」


 僕はパーズに剣を手渡す。


 パーズが剣の重さで一瞬よろめき、剣を落としそうになったので僕はすぐさま支えた。


「……凄く重たい……。……でも、これくらい重い方が鍛錬になりそう……」


 パーズはお気にめしたみたいで、にこにこと笑ってた。


 僕もこの剣なら鍛錬に十分使えると思い、購入を決める。

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