第274話 モモの選んだナイフ

「主様、マルも何かお役に立ちたいです。エナちゃんやモモさんみたく脚は早くないですけど、力になれるようにどうしたらいいですか?」


 僕の手を握っているマルは真剣な表情で僕に質問してきた。


「マルは戦いたいの?」


「えっと、別に戦いたいわけじゃないですけど……、主様の役に立ちたいんです」


「そうなんだ。ん~、僕はマルには危険な道に行ってほしくないのが本音だけど、モモみたいに戦って誰かの役に立ちたいと思っているのなら、素材を採取する力を付けたり、知識を得て正しい判断や最善策を考えられるような訓練をするといいよ」


「知識……」


「そう。戦うだけが戦闘じゃないからね。マルは冷静な判断が出来る子だから、きっと知識を着けて技術を磨けば誰の役にでも立てるよ」


「なるほど……。じゃあ、マルは一杯勉強して賢くなればいいんですね。あと、鍛錬をして強くなれれば、主様の役に立てるんですね!」


 マルは目を輝かせ、僕の手をギュッと握る。


「まぁ、簡単に言えばそうだね。でも、僕に無理に合わせなくてもいいよ。マルの好きな道を見つけたらその方向にずれてもいいんだ。そうすれば巡り巡って僕の役に立てるから。でもありがとうねマル。僕の役に立とうとしてくれて本当にうれしいよ」


 僕はマルを褒めた。両手が塞がっているので撫でられなかったのだ。


「えへへ~。マルはご主人様のために沢山沢山頑張っていっぱい褒めてもらえるようになります。あぁ~、私もモモさんみたいに早く大きくなって主様の役に立ちたいなぁ~」


「じゃ、じゃあ、ミルも……。お姉ちゃんと同じくらい頑張る……」


「うん。じゃあ、マルはミルに負けないくらい頑張るよ!」


 マルとミルは互いに見つめ合って、少し笑ったあと僕の脚にくっ付いてきた。


「エナも、エナも~。エナも主のやくにたちた~い。主、何か困ってない?」


「そうだなぁ……。エナのせいで前が見えないから、どいてくれると助かるかな」


 エナは僕の顔に抱き着いており、視界を遮って来ていた。僕は周りが見えず危なくて仕方がない。


「分かった。退く~」


 エナは顔のまえからは確かに退いてくれた。だが、肩車の位置にちゃんと戻ってくれない。エナの動きたい欲が強すぎるのか体を這う虫のようにちょこまかと移動する。


――早くモモに戻ってきてもらわないと僕は一歩も動けず、立ち尽くすだけになってしまう。


 そう思っていたころ、後ろから足音が近づいてきた。


「ご主人様、少しいいですか?」


 モモの優しい声が聞こえた。どうやらモモが戻って来たようだ。


「モモ? うんいいよ。でも、まずは子供達をどうにかしてほしいかな」


「分かりました」


 モモはマルとミルを僕から引き離した。


 両腕が二人に捕まれていたため自由に動かせなかったが、二人が離れたことで僕の腕は自由に動かせるようになる。


「よいしょっと。エナ、体をちょこまか動かないの。落ち着いて行動しようね」


「はーい」


 僕は体を動き回るエナを捕まえて床におろし、手をつないでおく。


 僕達はモモの後ろについていき、ナイフがズラッと並んでいる場所に移動すた。


「迷っているのがあって、真っ直ぐのナイフと湾曲しているナイフなんですけど、どっちがいいと思いますか?」


 モモは僕に二本のナイフを見せてきた。


 全体の長さが三十センチメートルほどのナイフで、柄の部分が十二センチメートルほど、刃の部分が十八センチくらいだ。どちらも使いやすそうで、甲乙つけがたい。


 だが、僕は質問されたので正直に言う。


「僕は真っ直ぐの方がいいと思う。ナイフは鞘から抜く動作を多用するし、さっと抜けた方が安心でしょ。抜き差しに不快感が生まれないから僕は真っ直ぐの方が使いやすいと思う」


「なるほど、言われてみたらそうですね。それなら、私はこのナイフにしようと思います」


 モモは二本持っていたナイフの内、湾曲したナイフを棚に戻して真っ直ぐのナイフを残した。革製の鞘に入れ大事そうに持っている。


「他に必要なものはない? あったらついでに買っておこうと思うけど」


「そうですね……。防具は村で作ってもらえますし、靴も作ってもらえるはずですから……。あ、あれはどうですか」


 モモはとある棚を指さした。そこには砥粉や油、砥石などが売っていた。


「刃物の手入れや防具の手入れに使える品を買っておきたいんですけど、いいでしょうか?」


「もちろんいいよ。使いどころが多そうだし、いい品を買うのをお勧めするよ」


「分かりました」


 モモは棚から手入れに必要な品を纏めて持ってきた。そこそこの値段になりそうだが、モモにはいつもお世話になっているからよしとしよう。

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