第271話 ハオへの贈り物

「はい、ミル。贈り物だよ」


「あ、ありがとうございます……。大事にします……」


 ミルは紙袋を抱きしめるようにして持ち、微笑んでいた。


 尻尾や耳が動き、凄く嬉しいのだと分かる。表情があまり変わらない分、尻尾や耳が分かりやすい感情の指標になってくれるのだ。


 僕はミルに日記帳を手渡したあと、玩具が売っているお店に向う。ハオが欲しいボールが何なのか分からないので、ハオを呼んだ。


「ハオはどのボールが欲しいの?」


「んー。全部欲しいけど……、どれか選ばないといけないのか?」


 その場にあったボールはゴムボール、革製のボール、木製のボール、などなど、大小さまざまなボールが売っていた。


 使う用途によって遊び方も変わってきそうだ。


一番使い勝手のいい品はゴムボールだと思うがハオ達の力で遊んでいたら、すぐに割れてしまいそうだ。


 そう思っていた矢先……。


『パンッツ!』


「あ……、割れた。コルト、ボールが割れた!」


 ハオはゴムボール持って思いっきり潰したらしい。破裂音が店内に響き、辺りが驚愕とする。


「す、すみません。すみません」


 僕は周りのお客さんに謝った。こんな場所で破裂音なんで出したら人の恐怖が連鎖して事故になりかねない。


 割れたゴムボールは僕が預かり、弁償する羽目になった。だが、ハオの力に耐えられるボールを選ばなければ意味がないので弁償してでも良い品を選ばせて上げようと考える。


 その後、革製のボールは割れ、木製のボールは潰れ、鉄製のボールは拉げた。


 なかなか良い品がなく、僕の弁償額だけが増えていく。


「コルト、全部割れちまうぞ。どうしたらいいんだ?」


 僕達が見ていたボールは全て普通の品だった。


 一個銀貨一枚ほどで買えるボールで高いボールは置物や遊び道具ではなさそうな雰囲気を放っており、手を出していなかった。


「高いボールの方を見てみようか。力の入れ具合を考えて触ってみて」


 僕は展示されているスイカほどのボールを手に取り、ハオに渡す。


 重さはさほどなく、高級品の中でも一番質素で普通のやつを選んだ。


 ボールに宝石なんてついていても何の意味もないからね。


「ふぐっ!」


 ハオはボールを両手で挟み、潰す。どれだけ力を入れても割れず、元の形に戻る。


「おぉ! 割れなかったぞ! コルト。ハオ様はこれにするぜ!」


 ハオはボールを高らかにあげて購入を希望した。


「分かった。じゃあ、買って来るから、少し待っていてね」


「おう!」


 僕はハオからボールを受け取り、値札を見る。


 値札には『破裂耐性』付きと書いてあり『火炎耐性』またの名を『防火』のスキルが付与されていた日記帳と同じく、スキルが付与されている品だった。


「スキルが付与されていたらそりゃあ高いよなぁ。ダンジョンで手に入れないといけないスキルが掛かれた本を使ってるんだから当たり前か。でも、耐性系のスキルはよく出るみたいだからこの値段なのかな」


 スキルの付与されたボールは一個で金貨一〇枚。こちらも、日記帳と同じ値段だった。


 ハオが割ったボールは全部で一〇個。つまり、金貨一一枚のお買い上げになったわけだ。


 ちょっと損した気分だが、高級な品はやはりそれだけの意味があるのだと思わされる。


 割れたボールを店員さんに見せると、驚かれた。


 きっと安いボールが軒並み破壊されているのを見て怖くなってしまったのだろう。


 普通の人間が触っても絶対に壊れないのに、それだけの数を割られ、店員に持ってくるなんて相手からしたら恐怖でしかない。


 僕は全額支払い、店員さんに誤った。壊れた品は処分されるらしいので店員さんに渡して、持ちものを減らす。


 包装されたボールを僕は受け取り、ハオの元に戻った。


「はい、ハオ。贈り物だよ。大事に使ってね」


「分かってるぜ! 大切に使うに決まってるぜ!」


 ハオはボールを抱きしめて嬉しさを表現している。


 実際、子供達の中で一番子供っぽいのがハオだ。


 おっちょこちょいで怪我ばかり、泣いて笑ってよく動く。本当に子供っぽい。


 ハオをナロ君のもとに向かわせ、はぐれないよう、しっかりと手を繋いでもらう。


「主~エナも、なんかほしぃ~」


 僕にくっ付いてくるエナも物欲が少し出たようだ。


「じゃあ、エナをなでなでしてあげるよ。それで、エナは十分でしょ?」


「ぶ~、主、エナには撫でとけばいいや思ってるの~」


 エナはむくれ、頬を持ちのように膨らませて怒っていた。


「そうだよ。だって、エナは撫でられるのが好きなんでしょ。ほらほら……」


 僕はエナを抱きかかえて顎下を撫でる。


「うぅぅぅ……。気持ちィぃ……」


 エナは足をビクビクさせて微笑みながら撫でられていた。


 やはり、エナは僕に撫でられるのが大好きらしい。

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