第267話 村から一番近い街

「はは……。とりあえず、万が一何かあったら逃げるんだよ。分かった?」


「分かった!」


 エナは大きく頷く。


 僕は理解してくれたエナの頭をそっとなでた。


「えへへ~」


 たったそれだけでエナはにんまりと笑い、尻尾を振る。


 モモは門のすぐそばまで馬を走らせたあと、停止させる。


「よし。じゃあ、僕は門番の人と話してくるよ。皆はここで静かに待っていてね」


「ハーイ」×子供達。


 僕は馬車の前座席を下りて門番のもとに向う。


「門を開けてもらってもいいですか」


「身分証の提示をお願いします」


「分かりました」


 僕は以前作っておいたウルフィリアギルドのギルドカードを門番の方に見せた。


「ギルドカードを拝借します。スキルボードで読み込みますので少々お待ちください」


「はい」


 門番の方は壁に設置されている部屋に入り、スキルボードへ僕のギルドカードを翳した。


『ガオンッ』


「はい。コルト・マグノリアスさんですね。ギルドカードを確認しましたのでお返しします」


 門番の方は僕にギルドカードを返してくれた。


「では、門を開けますから馬車の方に戻っていただいても構いませんよ」


「分かりました。失礼します」


 僕は門番の方に頭を下げて馬車に戻る。


「モモ、門の扉が開いたら馬を走らせても問題ないよ。でも、街中に入ったら少し様子を見て、馬に歩かせた方がいい」


「分かりました」


 僕は馬車の前座席に座る。


『ゴゴゴゴゴゴゴゴ……』


 重そうな扉が開き、馬車一台が通れそうな程の隙間が空いた。


「はっ!」


 モモは手綱を撓らせて一度叩く。


 すると馬は動き出し、ゆっくりと歩いて門に近づいていく。


 僕達が門を通り、街の中に入ると多くの人が行きかっており、馬車も多く走っていた。


 比較的田舎の街だが、人口は多く、産業も盛んなため経済は良好、人の暮らしは華やかではないものの皆、楽しそうに生活しているような場所だ。


「じゃあ、商店街に行こうか。確か……商店街は七番地にあったはずだから、道路に書いてある七番地行の矢印にそって馬車を走らせよう。えっと、七番地に行くには、とりあえず真っ直ぐ行って左だね」


「分かりました」


 モモは馬に入口付近を真っすぐ歩かせたあと、大通から左に進ませる。


 他の馬車の後ろにすぐ着き、僕が案内しながらモモは馬を操作する。


 大通なので道幅は広く、王都よりも馬車の数は多くないのでとても走りやすい。


 馬車と言っても大体が荷台を引いている荷馬車だ。


 貴族が乗っているようなギラギラとした馬車はいない。


 数分間馬車を走らせると、七番地の看板が見えた。


「よし、ここで路線を変えるよ。右に曲がって内側に向ってくれる」


「は、はい」


 街の周りの大通を抜け、七番地の人も歩ける通路へと馬車を移動させた。


「ここからはなるべくゆっくり走らせて、お店を探しながら移動しよう」


「わ、分かりました」


 街の建物は対外がレンガや石造り。


 たまに木造も見かけるが、馬の休憩所や厩舎だ。


 お店の雰囲気は市民にも入りやすい質素な外壁、ガラス張りと言うよりかは商品を露出させている。


 さっと入ってさっと出られるような造りになっていた。


 僕は王都のギラギラした雰囲気よりも街の落ち着いた雰囲気の方が好きだ。


 街の行きかう人にはあまり差がない。


 凄く良い服を着ている人やボロボロの服を着ている人がいると言ったような貧富の差がなく、街が潤っていると分かる。


「ご主人様。なんか、王都に住んでいる人よりも街の人々の方が楽しそうですよ」


 モモは街の人々を少し見回して、驚いた表情をしている。


「そうだね。王都は競争が激しいから皆、殺伐としているけど、街の人たちは互いに認め合って高め合おうとしている精神が見て取れる。他人を蹴落とそうとするか、向上し合おうとするかの違いなんじゃないかな」


「私、街の方が好きです。なんか、街にいる獣人達は皆、笑顔ですし。奴隷なのに普通に街の人と会話している方もいます。それだけ差別が少ないってことですよね?」


「そうだね。ここの街は昔、王都から迫害された人たちが作ったと言われているんだ。だから、皆、差別をしたりしないんだよ。最近はますます人が増えているって言うし、僕たちの住んでいる村からも居住する人が多いんだ」


「へぇ。確かにお仕事を探すのならこっちの街に移住した方がよさそうですよね」


「まぁね。皆も大人になったら好きに移住してもらっていいからね。僕は止めたりしないから、自分の一生を大切に生きてよ」


「私は一生ご主人様に仕えるつもりですよ」

「エナもー。主とずっと一緒にいる~」

「マルもです!」

「ミルも……」

「……バーズも……」

「ハオ様もだぜ!!」

「もちろん僕もですよ」


「み、皆……」


 僕は凄く嬉しかったのだが、心変わりはするものなので今はそう思うかもしれない。


 数年後には早く田舎の村を出て街に行きたいと言い出すかもしれない。


 そう思い、僕はあまり気に留めず、嬉しがっておく。

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