第266話 天才と馬鹿は紙一重
「アハハ! アハハ! 楽し~。主、これ楽し~よ」
エナは大はしゃぎをして楽しそうにしている。
「そう、よかったね。楽しさもそうだけど、ここは風邪が気持ちいでしょ。森の中を吹き抜ける感じがさ、すっごくいい気分になるんだ」
「うん、分かる~。エナもすっごく楽しいもん」
エナは大変お気に召してくれたみたいだ。尻尾の振りが全く治まらない。
僕は、もう少し大きくなったら操縦させられると言い聞かせ、エナに馬車の中に戻ってもらう。
好奇心旺盛なのはいいが、いかんせん元気過ぎて色々なものに興味を持ってしまうのがとても心配だ。危険な薬草や虫、生き物にも興味を示さないか不安でならない。
エナは危険な行為にも興味本位で行動してしまう。木登りや川への飛び込みなど、命の危険よりも楽しさが優勢なのだ。
まぁ子供だから仕方ないかもしれないが、危機感が薄いと言うのも問題だ。
強すぎてもいけないが、全く持っていないのは危なすぎる。
自然には危険がいっぱいだと言うことを子供達に知ってもらいたい。
だが、皆は自然が大好きなので危険をも楽しんでしまう傾向がある。
そうなると、本当に目が離せない。
もう少し穏やかにさせるべきかと考えたが、のびのびと成長させようと思っていたので危険にならない程度に触れさせて少なからず、知識を着けてもらう方針にした。
とはいっても崖に気を付けてとか、大きな魔物や動物に警戒しようとか、言っても、皆は大きな危機感を覚えていないようだ。
主な理由として僕がいるかららしい。
確かに、僕がいれば危険から守ってあげられる。
ただ、ずっと守ってあげられるかどうかは分からない。
皆が大きくなったら自分の身は自分で守らなければならないのだ。
身を守るために必要なのは強靭な肉体と健全な精神。加えて知識だ。
知識として危険を知っていれば自ら近づいたりしないはず。
ここで行動をとってしまうのは馬鹿か天才のどちらかだ。
普通なら立ち止まるか後退するところを突き進む者と危険をもろともしない者。
天才と馬鹿は大して変わらない。
他の者に天才だと思わせれば天才だし、馬鹿としか思われないのなら馬鹿なのだろう。
天才は他人に自分の力を示すのが得意で、馬鹿は自分の力を他人に見せるのが苦手なだけとも言える。
子供達は皆、天才である。
だが大人になるに連れて凡人になったり、馬鹿になったり、していく。
天才のまま大人になる者ももちろんいる。
子供達の天才を例えるとすれば、
『エナは運動と勉強の天才』
『マルは甘えの天才』
『ミルは集中力の天才』
『ハオは遊びの天才』
『パーズは努力の天才』
親バカかもしれないが皆、天才なのだ。
この子達の個性を殺さず、長所をしっかりと伸ばしていけば社会で十分生きて行けるはずだ。
僕はスキルで人生が少し狂ったが通常、僕のような事例は滅諦に起らない。
なので、皆がもらうスキルによってこれからの生活が変わるかもしれない。
「未来を想像するのは楽しいけど、何で辛い感情も得てしまうんだろうか。まぁ、楽しい未来だけを思い描いていても生活していくのが大変なんだよな。時には現実を見るのも大切だ。でも、現実はもう見ているんだよなぁ」
僕はブツブツと一人ごとを唱え、僕に出来ることなどほぼないと悟る。
たった十年たらずで皆、大人になってしまうのだ。
その短い間に僕が出来ることなんてたかが知れているので皆の努力が必要になる。
僕は子供達に努力する場を与えるだけで十分かもしれない。
少し長い間思考していると、前方に街の入り口が見えてきた。
今、僕達は森を抜け、平野の道を走っている。
「ご主人様、街が見えてきました。このまま走らせればいいんですか?」
「うん。このまま真っ直ぐ行って門の前に着いたら馬を一度止めて。僕が門番の人に話をしてくるから」
「分かりました」
「主。なんかでっかい壁が見える~」
エナは小窓から顔をのぞかせ、興奮していた。
「そうだね、王都の壁よりは大きくないけど、エナ達には十分大きく見えるか」
「何であんな大きな壁があるの~?」
「魔物の進行を防ぐためだよ。この前みたいに魔物がいっぱい現れた時にあの壁があると街を守ってくれるんだ」
「へぇ~。主みたいなものなのか。凄いね」
「確かに凄いね。まぁ、壁自体には魔物を倒す力はないから人の手を使って戦わないといけない。エナ達がもし魔物に襲われたら一目散に逃げて人に助けを求めるんだよ。出来れば騎士か冒険者の方に助けを求めた方がいいかな。一般人とは服装が違うし、戦い慣れてると思うからきっと助けてくれるよ」
「主とずっといるからだいじょ~ぶ!」
エナは笑顔で答える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます