第265話 近くの街に買い物
次の日。
僕はいつも通り朝の鍛錬をパーズと共に行った。
不定期で起きるエナも一緒に鍛錬してヘトヘトになったあと、朝風呂にドボンと浸かり、一気に汗を落とす。
これが出来るのはあまりにも気持ちが良すぎる。
僕とパーズ、エナは既に鍛錬後の温泉と言う快楽を知ってしまった。
温泉があるだけで朝、頑張って起きて鍛錬しようと言う気分になる。
鍛錬に興味のない子供達と鍛錬したくても仕事の方を優先したいモモとナロ君は朝食の準備を行ってくれていた。
僕達はお風呂からあがり、食堂に向かい、皆と一緒に朝食を取る。
お風呂上がりの食事は格別に美味しかった。
ナロ君の料理が美味しいと言うのもあるが、運動後の料理が体に沁み込んでいく感じがする。
食事を終えた僕達は服を着替え、牧場に向った。
多数で移動するためには馬車が必要だった。
僕は解放感のある馬車を牧場で借りる。
馬も借りた。
たった一日しか乗らないのに、新しいものをわざわざ買う必要はない。
家にある物を使って済ませれば、それだけお金を浮かせられる。
そう考え、実家の馬と馬車を借りたのだ。
爺ちゃんの育てた馬たちは皆凛々しく賢い。
僕も子供のころから一緒に育てて来たのでとてもよくなついている。
ただ、僕よりもなついていたのが……。
「ヒヒン、ヒヒン!」
「も、もぅ。元気ですね。よしよし。いい子いい子」
馬がモモの胸に顔を当て鼻息を荒くしていた。
やはり爺ちゃんの育てた馬だなと言うのがすぐに分かってしまうくらいスケベな馬だった。
まぁ、馬の性能を考えると適任なのは間違いないので、僕がにらみを利かせ、モモから離れさせる。
逆にモモの方は僕の方を向いて体を震わせている。
「モモ、ごめん。モモを睨んだわけじゃないんだ」
「い、いえぇ。こ、これは……、体が勝手に反応しちゃっただけなので気にしないでください。ご主人様の目つきが狂おしいほど凛々しくて……、勝手に支配されている気分になってしまいました……」
「そ、そうなんだ」
僕は馬を縄で馬車に繋ぐ。
子供達を馬車に乗せたら、僕とモモは前座席に座った。
僕は馬の操作が出来る。
でもモモはまだ乗れるだけで、馬車を乗りこなせないので教えておこうと思ったのだ。
「こうやって波立たせてやれば走る。引っ張れば止まる。主な操作はこの二つ。あと、右に行きたければ右の手綱を少し引っ張って、左に行きたければ左側の手綱を引けばいい」
「なるほど。そこまで難しくなさそうですね」
「慣れれば簡単だよ。ただ、速度の出しすぎには注意が必要なんだ。馬の走りやすい速度で走らせた方が疲れにくいし、長く走れる」
「そこは御者の腕の見せ所ですか」
「そうだね。そう考えるとキースさんは凄く上手だったのが分かるでしょ」
「はい。ほとんど止まりませんでしたし、蛇行の道も上手く走っていました。馬と息が合っていないと難しいですよね」
「うん。だから、キースさんの馬と会話できるスキルが重要になっていたんだ。僕達は馬の声が聞こえないから、気遣ってあげないと馬に無理させているかもしれない」
「つまり、馬が走りやすいように配慮すればいいんですね。了解です」
モモは手綱を握り、馬の走り方を見ながら速度の調節を行っていき、馬が疲れにくそうな速度を見つけ、その瞬間から一定に保つ。
「モモ、上手いね。料理とは大違い……」
「りょ、料理はまだまだこれから上手になりますから」
モモは少し拗ねてしまい、僕はいらぬ発言をしたと反省する。
「ご主人様、分かれ道が……」
「そこは右だね。左に行くと王都の方角なんだ。右に行くと一番近い街がある。そうだなぁ、馬車で昼頃には付けるかな」
「結構かかるんですね」
「仕方ないよ。遅くなりそうなら街で一泊すればいいし、時間は別に気にしなくていいから」
「そうですか。分かりました」
「主~。エナもモモと同じことした~い」
エナが小窓から顔を出し、モモの替わりをしたいと言い出す。
「エナは小さくて危ないからまだやらせられないんだ。ごめんね」
「え~。でも、エナ、やってみた~い」
エナは小窓から手を出してじたばたし始めた。
「はぁ、仕方ないな。おとなしくしていられる?」
「うん! 出来る!」
エナは笑顔で堂々と答える。
僕はエナを小窓から出し、膝の上に乗せた。
「疑似で御者さんの体験なら、してあげられるよ。はいよ~ってね」
「おぉ~。早い早い」
僕はエナの両手を持ち、少し揺らす。
隣のモモが持っている手綱に合わせ、手を動かすのだ。
モモが右手を引いたらエナの右手を引き、波立たせたらエナの腕を持ち上げて素早く落とす。
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