第264話 屋敷での夜

 ミルは日記帳。


 ハオはボール。


 パーズは重い剣。


 モモは防具とナイフ。


 ナロ君は勉強道具と教科書。


 皆の欲しい物はほぼ全て街に行けば揃うはずなので今日は買わずに僕は家で過ごす。


 モモの防具はカロルさんにお願いすれば作ってもらえると思うので、魔物の素材は売らずに残しておこう。


 僕達は食堂で夕食を取る。


 食堂での食事は初めてだった。


 広い食堂に長めのテーブルが置かれており、十人以上が椅子に座って一緒に食事をとれるほどだ。


 僕達は四人と四人で向かい合い、取り分けられた料理を食べる。


 料理はナロ君が全て作ってくれた。


 ナロ君は下準備などをおもにやってくれて、その後も料理長といった具合に皆に指示をして料理をしていた。


 僕や子供達も手伝い、実質皆で作った料理を皆で食べた。


 ナロ君はキッチンの器具の使い方を即座に理解し、滞りなく使いこなしており、普通にすごかった。


 きっと僕だけでは到底理解できなかっただろう。


 でも、キッチンの器具はどれも使いやすく薪を使わずに火を使えるのが革新的で料理する手間が一つ省かれたことでとても楽になっている。


 是非ともすべての家が魔石コンロになるといいなと思いながら僕は料理の手伝いをしていた。


 夕食を終えた後、食器を調理場に運び、丁寧に洗った。


 皿洗いも蛇口をひねるだけで水が出てくるのでとんでもなく楽だ。


 桶で水をいちいち運ぶ必要がない。


 だが、水の使い過ぎはもったいないので大切に使う。


 僕達は食器を洗い終えた後、お風呂に向い、皆で一緒にお風呂に入った。


 モモはカロルさんのお店でいつの間にか水着を買っていたらしく水着姿で入っていた。


 水着と下着の区別がつかない僕は終始恥ずかしい思いをし続けた。


 お風呂に入り、皆が丁度眠たくなってきたころ、歯を磨き、寝室に向う。


「じゃあ、僕の部屋はここなので、お休みなさい、コルトさん」


 ナロ君は僕の寝室の隣の部屋に向かう。


「うん。お休み。明日は近くの街に行って皆の欲しい物を買おうと思うから、少し早めに家を出ようか」


「分かりました。朝食は午前七時頃でいいですかね?」


「もしかして、朝食も作ってくれるの?」


「もちろんです。僕が出来るのはそれくらいですし、と言うか、僕とコルトさんくらいしか真面に料理が出来ないじゃないですか。コルトさんに朝から料理を作らせるわけにはいきません。僕がしっかりと作らせてもらいます!」


「ありがとうナロ君。それじゃあ、食費を渡しておくよ。まぁ、この村はほぼ無料で配り合っているからあまりいらないかもしれないけど、ナロ君の欲しい物を買えるくらいのお小遣いはあげるようにするから」


「え、ええ。お、お小遣いですか! 主人が奴隷にお小遣いをあげるって……、訳が分かりませんよ」


 ナロ君は両手を前に出していらないと言う行動を体現した。


「いや、貰ってもらうよ。これはれっきとした対価だから。ナロ君にはいろんな仕事をしてもらっているし、もう感謝しきれないから対価としてナロ君が自由に使えるお金をあげるんだ。もちろんモモと、子供達にもお小遣いをあげるから安心して」


「え……、私達にも貰えるんですか?」


 モモは聞き耳を立てていたのか、お小遣いという言葉に驚いていた。


「もちろん。皆に一律でお小遣いをあげる。皆が仕事をすればその分お小遣いを増していくから。お小遣いで好きな服や食べ物を買って日々の生活をもっと楽しくしてほしい」


「ご、ご主人様……、い、いい人過ぎませんか?」


「何で? 家族なら子供にお小遣いを少しくらいあげるのは親としての義務みたいなものでしょ。だから、皆は気にせずお小遣いをもらって使えばいいんだよ。僕には物欲がほぼないから、お金を持っていても意味ないだ」


「そうはいっても……。奴隷が主からお金を貰うと言うのは……」


「んーー。どうしたら貰ってくれるの?」


「えっと、与えるのではなくてしっかりとした対価で渡した方がまだ規則に反しないかと思います」


「規則……。そんな規則あったっけ?」


「奴隷解放制度と言う制度があって、奴隷が働いた対価で自分の購入金額を支払い、主からの了承を得たら、奴隷から解放されるという制度なんですけど。規則として奴隷が働いた対価と言う部分がお金を与える行為は反するかと……」


「なるほど。よし! それなら、月に一度、皆に一律の給料を払うよ。加えて、働いた対価に見合う分の金額を皆に渡す。これで万事解決だね!」


「確かにそうすれば規則には引っかからないかもしれないですけど……、いいんですか?」


「いいの、いいの。皆は僕の子供達なんだから、親っぽいことさせてよ。まぁ、どっちかと言うと主っぽい事をしているのか……。別にどっちでもいいか」


 僕は皆にお小遣いと言う名の月給を与える方針に決めた。


 モモとナロ君は驚いていたが、子供達は何を言っているのかよく理解できていないようで頭に? を浮かべていた。


 僕は皆が幸せになってくれればよかったので何ら痛手ではない。


 逆に皆を助けられるので、とても嬉しい。


 僕達とナロ君は別々の部屋に向かい寝室に入る。


「ふぅ~。今日も疲れたね。皆は疲れすぎて寝ちゃったのかな?」


 エナ、マル、ミル、ハオ、パーズの五人は気持ちよさそうにグーグーと眠っていた。


 僕は皆をベッドに寝かせる。


 子供達の寝相が悪いので僕とモモで壁になり、子供達が落ちないように囲った。


 マルとミル、エナの三人は、眠っている状態でも僕のにおいを嗅ぎ分けて抱き着いてくる。


 可愛くて仕方がないので、突き放す必要もなく子供達を優しく撫でながら夜を過ごす。

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