第263話 仕事服の注文

お店をあとにしてからマルはずっとご機嫌で時おりぴょんぴょんと飛び跳ねながら服の身軽さと着心地の良さを味わっており、小さな動けるメイドさんになっていた。


 服の色や装飾が派手過ぎず、メイドさんの衣装に近いので着回しもしやすそうだ。


 ただ、マルや子供達の成長速度を考えると今日買った服を着ていられる時間は短いかもしれない。


 まぁ、着られなくなったら着れるように手直ししてもらえばいいような気もする。


 きっとカロルさんならお金を払えば手直しもやってくれるだろう。


「主様。マル、可愛いですか!」


 マルはウキウキな表情で僕に聞いてくる。


「うん。凄く可愛いよ。メイドさんみたいで仕事も上手に出来そうだし、しっかり者のマルにぴったりの衣装だね」


「えへへ。ありがとうございます。マル、お家のお仕事いっぱい頑張ります!」


 マルは口角をあげて嬉しそうに笑うと、きりっとした表情になって意気込む。


「うん。皆と一緒に頑張ろうね」


 僕はマルの頭を優しく撫でる。


 すると、マルの尻尾がうねり、嬉しそうに少し揺れていた。


「エナもかわいい服、ほしかった~。主、エナにも服を買って~」


 エナは僕にくっ付き、マルの服を羨ましがっていた。


「エナは今着ている服があるでしょ。今着ている服が着れなくなったら新しい服を買ってあげるから、もうちょっと待っていてね」


「む~。エナは今、欲しいのにぃ~」


 エナはむくれ、尻尾で僕の体を叩く。


「欲しい物は一週間待つ。他の人が持っているからって自分も欲しい物かどうか分からないでしょ。買ってみたら使わなくなったとか、そういう状態になってしまうかもしれないから、物を買うときは慎重になろうね」


「はぁ~い。確かにエナ、服着てるからこれでもいいって思った。別にマルの着てる服じゃなくてもいいや。主の選んでくれた饅頭は嫌だけど……」


「はは……。あれはあれで可愛いんだけどな……」


 僕達はマルを屋敷に送った。


 皆、マルの服を褒めていたがモモだけはなぜか悔しそうな顔をしてマルを見たあと、僕のもとに近寄ってきた。


「ご、ご主人様。私にもああいった服を着せてください!」


「え、何でそうなるの? あの服はマルが欲しがっていた服を仕立て屋さんにお願いして作ってもらったんだよ。モモも、メイドさんみたいな服が着たいってこと?」


「ご主人様に仕えるのなら、あの服は正装になり得ます。いつもの服と家の中で作業をする際に服を選ぶのは大変ですから、一つにまとめた方が洗濯も楽ですし、汚れても構わないじゃないですか。なので、私達に正装の一式を与えてくれませんか」


「皆、私服より仕事服の方がいいってこと?」


「はい。その方が、身が入ります」


 モモはグイグイ近づいてきて、言ってくる。


「まぁ、皆がそうしたいと言うのなら……。マル、今日買った服が特別じゃなくなってしまうけどいいかな?」


「はい。ご主人様に可愛いって言ってもらえたのでマルは十分です!」


 マルは了承をくれた。


 その後、僕は皆を連れてカロルさんのお店に出向き、カロルさんに驚かれた。


「こ、コルトさん。大人数でどうされたんですか?」


「えっと、皆、マルに作ってもらった服が気に入りまして仕事服にしたいそうなんです。なので、女の子たちにはマルに作ってもらったメイド服を、男の子達には執事服を作ってもらえませんか。そうですね……。七人いますから、二着ずつお願いします。中金貨五枚でいいですかね」


「そ、そりゃあもう、願ったり叶ったりですよ。私、一生懸命に作らせてもらいます! 時間が掛かりますけどよろしいですか?」


「はい。時間をかけて作ってください。出来れば洗濯しやすい構造にしてもらえると助かります」


「分かりました。任せてください!」


 カロルさんは胸を叩き、意気込みを見せる。


 さすが職人さん。仕事が入ると熱も入るみたいだ。


 看板娘のコロネちゃんの周りに子供達が集まり、挨拶をして談笑していた。


 コロネちゃんはマルにそっくりなミルを見て驚き、もちもちの肌をむにっと摘まんで困り顔まで同じだと言って楽しそうにしている。


 ミルの方も新しい話相手が出来て嬉しそうだった。


 カロルさんは皆の体を採寸していく。


 子供達の採寸が終わり、モモの採寸が始まった。


「む……。幼げな見かけによらず、立派ですね……。ふむふむ……、お尻の方もなかなか……」


 カロルさんは採寸後の数字を見て頭を悩ませていた。


「あの、モモさん。少しいいですか?」


「え、ああ。はい。なんでしょうか?」


「モモさんの体形だと、胸の辺りとお尻の部分が服の構造状大分苦しくなってしまいます。少し見た目が他と少し変わりますがよろしいですか?」


「ど、どうしましょう。ご主人様。やっぱりみんな同じの方がいいですよね?」


 モモは困ってしまい、僕の方を向いて尋ねてくる。


「モモが着心地のいい服にした方がいいよ。だから、締めつけ感とかはない方がいい。カロルさん。なるべく雰囲気は似せてモモの着やすさを重視してください。その分の改変料は払いますから」


「分かりました。ではそちらの方向で作らせてもらいますね」


 僕はカロルさんのお店の常連に早速なってしまい、服の依頼なら全部このお店にお願いしようという気になってしまった。


 僕達は仕事着の受注を終え、家に帰る。


 マルとエナのお願いは聞き入れたが他の皆のお願いはまだ達成されていない。

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