第248話 意識のない男性
僕は朝にいい汗を掻き、朝食を得たあと、薬屋に向った。
昨日の親子に話を聞こうと思ったのだ。
親子の話を聞けば反対の村に行くか行かないか判断がつく。
皆には家事をお願いして僕は家を出る。
雨が降りそうだったので雨具を一応持っていく。
薬屋に到着すると、おじさんが親子の診察を行っており、二人に命の別状はなさそうだった。
「おじさん。二人とも助かったんですね」
「そうみたいだな。きっとコルトが見つけていなかったら二人とも森の中で死んでいただろう」
子供と母親はベッドに寝たままだったが死んではいなかった。
母親の方は意識があり、会話は出来そうだった。
「あの、あなたが助けてくれたんですか?」
「助けたというか、二人を森の中で見つけて僕の手ではどうしようもなかったのでこの薬屋まで運びました」
「何てお礼を言ったらいいか……。本当にありがとうございます。あの……、夫は見当たりませんでしたか?」
「いえ……、僕が見つけた時には二人しかいませんでした。お父さんがいたんですか?」
「はい。私達とブレーブ村の反対にあるキセキ村から逃げていたんです。ただ、逃げている途中に森で魔物に出会って……、夫が囮になって私達を逃がしたんです」
「なぜ、キセキ村から森を突っ切って来たんですか?」
「最短距離でブレーブ村まで行けますから……。死を覚悟で突っ切ってきました」
「そこまでしないといけない状況だったんですか?」
「キセキ村の冒険者は恐怖からほぼ逃げてしまい、防戦一方になってしまって……。元から強い冒険者は魔王討伐の部隊に召集されましたから、新米ばかりたったんです。早くしないとキセキ村が壊滅してしまいます。街の冒険者ギルドに依頼を出してください」
「なるほど。でも、キセキ村の支部から連絡が本部に行っているはずなので、今頃冒険者の人たちが向かっているはずです。僕はあなたの旦那さんの方を探してきます。まだどこかで生き残っているかもしれません」
「さ、探してくださるんですか?」
寝たきりの女性は目を丸くして驚いていた。
「もちろんですよ。たとえ死んでいたとしても死体がないと、埋葬も出来ません。腕の一本だったとしても持ち帰ります」
「ありがとうございます……。どうか、よろしくお願いします」
女性は目をぎゅっと瞑り、涙を流して頭を小さく動かした。
「えっと、旦那さんの匂いが付いた物とかありますか? 早くしないと雨が降ってきそうなので、早急に探したいんです」
「夫の匂い……。夫の使っていたナイフとかでもいいんですかね……」
「十分です。持ち手(グリップ)に汗のにおいが残っているはずですから、すぐに探せます」
僕は女性からナイフを貸してもらい、実家に戻る。
「モモ!」
僕は玄関でモモの名前を大きな声で呼んだ。
「は、はい! 何ですかご主人様!」
モモはエプロンを着けたまま駆けつけてきた。
「このナイフの持ち主を森の中から探してほしい。僕だけじゃ見つけられない。血の匂いを探るのでもいい。もうすぐ雨が降るから、それまでに出来るだけ捜索範囲を絞りたいんだ」
「了解しました!」
モモは自分の得意分野だと言わんばかりに僕の持っているナイフのグリップに鼻を近づける。
「スンスン……。はい。覚えました」
「よし。じゃあ、屋敷の方角に向う。そっち側にこのナイフの持ち主がいるはずだ。急ごう」
「はい!」
僕はモモを連れて屋敷の方面に向った。
森の中でモモは鼻を鳴らし、においを探る。
「スンスン……、スンスン……。こっちです!」
モモは微かな臭いを伝い、男性を追った。
村からどれだけ離れただろうか。
結構な距離を移動し、僕はモモについていく。
――においが残っていてよかった。雨が降ったらにおいが一気に消える。そうなったら探し出すのは困難だ。お願いだ。無事でいてくれ。
モモの後ろをついていくと前方に、木にもたれ掛かる人物を発見した。
「この人です」
「ありがとう、モモ。周りに敵はいる?」
「いえ。そう言った視線は感じません」
「分かった」
僕は男性の様態を見る。
出血がひどく、意識はない。だが、微かに息をしている。
まだ、死んでいないみたいだ。
「この位置なら、僕たちの住んでいるブレーブ村に行くより反対側のキセキ村に向った方が近いな。モモも森の中を一人で移動するのは危険だから僕に着いてきて。あと、敵のにおいや視線を感じたらすぐに知らせて」
「は、はい!」
僕は男性を背負い、襲われているというキセキ村に向った。
――村に冒険者が到着しているのならもう、安全地帯のはずだ。村の医者か冒険者の方の中に回復魔法が使える人にお願いして男性の傷を治してもらう。
僕達が男性を見つけたころに、雨が降り始めた。
僕が着ている雨具をモモに手渡す。
「モモ、これを着て。まだ、体調が万全じゃないのに、手伝ってくれてありがとう。雨に打たれて風邪でも引かれたら困る。遠慮せずに使って」
「それなら、男性に使ってあげてください。雨に打たれるだけでも体力を奪われます。雨から身を守り、体温を一定に保てばまだ助かる可能性はあるんじゃないでしょうか」
モモは自分が濡れるよりも、死に掛けの人物に対して優しい心で接していた。
「分かった」
僕は一度止まり、着ている雨具を脱いで男性に着せる。
これで男性が雨でぬれることはなくなった。
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